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エントランスにディスプレイされたロングテーブルとアートピース。“食とアート”をテーマにしたギャラリースペースオープン記念展覧会にふさわしいお出迎え。

イマジネーションを掻き立てるアート空間

9月9日にカッシーナ・イクスシー青山本店がリニューアルオープンをした。今回の目玉はギャラリー(約70m²)の開設にある。常時300点ほどの作品をストックして紹介するこのスペースは「DELL’ARTE(デラルテ)」(=アートについて)という緩やかに開かれたネーミングで、暮らしを彩るアート全般をさまざまな形で提案していく予定だ。

このギャラリーがユニークなのは、アートをライフスタイルの一部として扱っている点だ。アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンシュタイン、ディヴィッド・ナッシュ、オーギュスト・ルノワール、藤田嗣治などの巨匠の作品があるかと思えば、馴染みの薄い作品がその横に並ぶ。つまり、従来のギャラリーとは違い、アートを特別な存在ではなく、家具や照明、ラグやファブリックと同じく、総合力で暮らしをデザインする一片として考える。

それを投機の対象として捉えるのなら、きっといま価値のある作品、あるいはこれから値が上がる作家を選ぶことになるのだろうけれど、ここではいままで培った空間づくりのノウハウから、トータルな空間としての心地よさを優先する。だから、金銭的な価値観にとらわれることなく、自由な感覚でアートを楽しめるのだ。また、アートという言葉には“技術”という意味があることも踏まえて、「DELL’ARTE」は“楽しみの技術”について話せる場にしていきたいという意向もある。

店内に入ると、まず目に飛び込んでくるのが食とアートの邂逅だ。エントランスに設えられた、華やかに盛り付けられたロングテーブルと壁面に飾られた大きなアートピース。それらが渾然一体となって独自の世界観を描き出している。これは10月24日まで開催されているギャラリーオープン企画展「artetavola -食卓の愉楽-」の一環で、新設されたギャラリー以外にも、店内の至るところでアートのある日常空間が広がっている。

フレンチレストランのメニューを彷彿とさせる金子國義の作品。同様のテーマで描かれた6種類の作品が展示されている。

トリノ在住の日本人作家、櫻井伸也の作品。人間のもつ生理、つまり性的なことや食欲などの本性に応えた作風で、これもまるで食べる絵画と呼べるほど。ジェリービーンズを彷彿とさせる画面にスプーンを入れたかと思われる痕跡が描かれ、見ていると食したくなるような不思議な感覚に襲われる。

2015年のミラノ万博と並行して開催された「Arts & Foods」展(トリエンナーレ・デザイン美術館)にインスパイアされたこの企画展には、家族や恋人、友人といった大切な人が集い、多くの会話が交わされて、人生の愉楽の場となるダイニングを、アートを使ってもっと楽しんでもらいたい、という思いが込められている。そして、2部屋に分かれたギャラリースペース「DELL’ARTE」に足を踏み入れると、食にまつわるアート作品が絶妙なセンスでキュレーションされて、そこに潜むさまざまなイマジネーションを掻き立ててくれる。

そもそも、カッシーナ・イクスシーが空間コーディネイトの一環として多様なアート提案を始めたのは2001年。インテリア業界ではかなり早い時期からの取り組みだった。13年からは店舗で200点ほどの版画を見て、その場で好みの作品を選べる「ARTE ANELLO(アルテ・アネッロ)」というサービスを開始。「DELL’ARTE」のオープンは、それら一連の活動をさらに前進させた形であり、今後も年2回程度、インテリアから発想を広げた独自のテーマで催しを行うほか、イベントや店内展示コンセプトと連動させた作品展示をしていく。

2階に新設されたアートギャラリー「DELL’ARTE」の入口。正面に見えるのはアンディ・ウォーホルのシルクスクリーン作品。ギャラリースペースを併設するのはインテリア業界では初の試み。

1950年代に制作されたイタリアを代表するグラフィックデザイナー、フランツ・マランゴロによる「カンパリ」の大判ポスター。その前にはドイツの照明デザイナーで「光の詩人」と呼ばれるインゴ・マウラーによるカンパリソーダの瓶をシェードにした「カンパリライト」を展示。

ギャラリーの開設に伴い、3階を一部改装したのもトピックスだ。イタリアの「LEMA(レマ)」社のモジュール式収納アイテムや、欧米のトップメゾンの店舗などを手がけるフランスの「PHILIPPE HUREL(フィリップ・ユーレル)」社の家具を集中展示するコーナーを新設。そのほか、日本では初めてとなるイタリアの「GHIDINI(ギディーニ)」社のインテリアデコレーションアイテムの取り扱いを開始するなど、それぞれのブランドの世界観を強く体感できるスペースが加わった。1ブランドでインテリアを丸ごとコーディネイトする人は少ないかもしれないけれど、ブランドの個性を際立たせたプレゼンテーションは、それはそれで楽しい。この秋、魅力を増したカッシーナ・イクスシーに、アートとインテリアのいい関係を探しに出かけてみてはいかがだろうか。

Photos: Toru Yuasa
Edit: Toshiaki Ishii