「地域らしさ」と「企業らしさ」をかたちに INPEX JAPAN
INPEX新潟ビルディングは、地域に根ざした企業の新たな拠点として、働く人と場所、企業の価値観をつなぐ象徴的な空間として誕生しました。今回お話を伺ったのは、本プロジェクトを監修した大成建設株式会社設計本部の西山氏。新潟という土地の特性、INPEXという企業のアイデンティティを、どのように空間へと昇華させていったのか——その構想から実現に至るまでの過程、そしてカッシーナ・イクスシーとの協働の在り方を通して見えてきた、オフィスづくりの新たな可能性について語っていただきました。
新潟駅前に、新しい象徴を
—INPEXグループの未来を描くオフィス構想
新潟駅前の東大通に面した10階建てのテナントオフィスビル。外観は“⽇本海の波”を表象した縦基調のデザインとし、海風や太陽光などの地域特性、自然エネルギーの活用、高断熱性能の外壁といった環境制御という実⽤性も兼ね備えています。日本最大のエネルギー開発会社の企業理念を体現した環境配慮型テナントオフィスビルとして一際 存在感を放つ、新潟の新たなランドマークが誕生しました。今回、INPEXグループである3社がこのビルに入居することとなり、貸しオフィスの機能に加え、同3社の連携を見据えた“INPEXの顔”となる空間を構築する流れとなりました。
プロジェクトの根幹に据えられたのは、「INPEXらしさ」と「新潟らしさ」。東京のような汎用的なスタイルではなく、新潟という地方都市だからこそ実現できる“余白”と“ゆとり”ある空間をつくる——それが西山氏の最初の思いでした。
そこで考えられたのが、入居フロアである3層のオフィスがそれぞれ異なる機能と個性を持ち、人が“トラバース(横断)”するように動き、交わることを前提とした設計です。8階は集中を促す「プラント」、9階は交流の「アーバン」、10階はリラックスの「ホーム」として構成され、オフィス内のオープン階段で連結されています。
エネルギーの探鉱から都市への供給過程のように、人が巡り、育ち、活き、つながることで、社内外の知が掛け合わさり、新たな価値が創出され、多様な事象をTRAVERSE(横断)していく、そんな施設を目指しました。
“使うための美しさ”を軸に
——空間と共鳴する什器計画とは
オフィスの空間づくりにおいて、建築計画と什器計画が互いに良い影響を与え合う関係が重要だと西山氏は語ります。複数の什器メーカーの提案の中で西山氏が注目したのは、建築計画の構想に寄り添いながらも独自の視点を盛り込んだカッシーナ・イクスシーの提案だったと振り返ります。
地域や企業の風土を感じさせるストーリーテリングやモチーフの活用、バイオフィリックな発想など、空間全体のコンセプトと呼応するようなアイデアが随所に見られたといいます。提案そのものの完成度だけでなく、空間づくりに対するスタンスや姿勢が、選定にあたって大きな決め手となりました。
什器計画は、表現と機能が融合するインターフェースとなるよう設計されています。植栽もそれぞれの“流域”に応じて異なり、上流では苔むした深緑、中流は都市的な広葉樹、下流は海辺の植生を模して構成。こうした細やかな設計意図が、空間全体に“自然のストーリー”を編み込んでいます。
◀︎ 左官に信濃川の砂を混ぜ込んだ板材サンプル。上流は粒が大きな砂、下流側には粒が小さい砂、最下流のベンチにはアコヤ貝の貝殻を混ぜ、川から海への繋がりを表現。中流・下流に合わせて粒子の大きさを変え、試作は数十枚に及び、微細な表現までこだわり抜かれている。

▲ 左官に信濃川の砂を混ぜ込んだ板材サンプル。上流は粒が大きな砂、下流側には粒が小さい砂、最下流のベンチにはアコヤ貝の貝殻を混ぜ、川から海への繋がりを表現。中流・下流に合わせて粒子の大きさを変え、試作は数十枚に及び、微細な表現までこだわり抜かれている。
既製家具においては、主張しすぎず、それでいて存在感がある——そんな絶妙なバランスを持った家具が選ばれました。たとえば、9階エントランスホールに配されたDINE OUTラウンジチェア(右上)とBACK WINGラウンジチェア(右下)は、ファブリックやカラーで新潟らしさやINPEXのコーポレートカラーをさりげなく表現。視覚的なアクセントとなりながら、空間に深みを与えています。


▲ラウンジチェアの前には、移転前のオフィスで使われていた飛沫防止パーテションを、天板に再利用したサイドテーブルが並ぶ。
▲天板は2種類あり、一つは水の波紋を意匠に加えた透明度の高いアクリル天板。天井の雲型ルーバから滴る雨を表現した照明が揺れることで、下に落ちる影がまるで水面の揺れのように見える仕組み。
▲ラウンジチェアの前には、移転前のオフィスで使われていた飛沫防止パーテションを、天板に再利用したサイドテーブルが並ぶ。
◀︎天板は2種類あり、一つは水の波紋を意匠に加えた透明度の高いアクリル天板。天井の雲型ルーバから滴る雨を表現した照明が揺れることで、下に落ちる影がまるで水面の揺れのように見える仕組み。
▼2つ目はアクリルに塩化ビニールを混ぜ込んだ仕様。熱を加えることで色が変わり、また違ったテクスチャーが生まれた。
▲2つ目はアクリルに塩化ビニールを混ぜ込んだ仕様。熱を加えることで色が変わり、また違ったテクスチャーが生まれた。
使い手の中で息づく空間の記憶
プロジェクトの立ち上げ当初は、設計チームが中心となってオフィスコンセプトを描きました。しかし、お客様との日々の定例やワークショップなどを通じて、空間は少しずつ“使う人のもの”へと昇華していくと感じています。完成後には、社員自身が訪れた人々に自然とコンセプトを語る場面も見られ、その“らしさ”は当初の設計意図を越え、この建築を使う人、地域それぞれに浸透していくことを期待しています。
西山 康史
オフィス、研究所、厚生施設、生産施設等の多様な用途の建築設計を担当。2024年には日本建築協会の建築に関し優れた業績を挙げた設計者を選考し、顕彰する「第71回 青年技術者顕彰者」を授賞。建築設計を通して「社会」、「企業」、「環境」との「対話」をすることで、「新たな価値」を生む建築設計を実践している。







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