WEB MAGAZINE2023.6

カッシーナによる
若手デザイナーの登竜門
「パトロネージュ・プロジェクト」
第1弾:リンデ・フレイヤ・タンゲルダー

2022年6月、コロナ禍の影響を受け例年より2か月遅れで開催されたミラノ・デザイン・ウィーク。イタリア家具業界をけん引するブランド、カッシーナは、若手デザイナーにプロダクトデザインの機会を提供する新プロジェクト「パトロネージュ」を始動しました。 コラボレーションの第1弾に選ばれたデザイナー、リンデ・フレイヤ・タンゲルダーによるカッシーナの新作SOFT CORNERSは、どのように誕生したのか。製品発表の裏側にあるプロジェクトの詳細、EXTRA STORYをお届けします。

デザイン界に受け継がれる
パトロンシップ

ルネサンス期のイタリアに古くから伝わる「パトロン制度」は、芸術界の発展の原動力でした。芸術家たちの自由な創作活動を、金銭に限らずパトロンの人脈や影響力などによって支援する。そのおかげで、芸術家たちは自らの創造性を最大限に発揮することができ、今日の芸術の歴史に貢献してきたと言えます。

デザイン界の歴史を振り返ってみると、どうでしょう。カッシーナR&D(研究・開発)センターは、多くの若い才能を世に羽ばたかせる出発点となっていました。デザイナーが持ち込んだ革新的なアイデアを職人たちと一緒になって研究し、新しい素材や生産工程を実験する拠点として、発展を遂げてきたのです。2027年に100周年を迎える歴史あるブランドとしてその文化的使命を今一度見つめなおし、カッシーナはデザイン界のパトロンとしての役割を改めて強化することにしました。国際的な若き才能を育て、彼らの創造性を支援する新プロジェクトで、ブランドの歴史の新たな一ページをスタートさせています。

アートとデザインの絶え間ない対話

2021年2月、トリノでIN Residence*1のレジデンス・プログラムに参加していた、デザインスタジオDestroyers/Builders(デストロイヤーズ/ビルダーズ)の創設者リンデ・フレイヤ・タンゲルダー。彼女はトリノでのリサーチで、建築的特徴、ランドマーク、素材、都市について多くのインスピレーションを集めました。それらを反映し製作したオブジェコレクションにカッシーナのCEOルカ・フーゾが興味を持ち、彼女とコンタクトをとったのです。

photo credits : IN Residence

こうしてリンデ・フレイヤ・タンゲルダーの方法論とカッシーナの卓越した専門性が出合い、文化とデザインの双方を促進する多面的な対話が始まりました。実験的な要素と独自性を発揮する「アートピース」を生み出すことにこだわりを持っていたリンデ。その一方で、より多くの人に届く「工業製品(家具)」をデザインしたいという憧れもありました。彼女の作品の包括的なヴィジョンを実現するため、カッシーナは「アートピース」と「工業製品」、両方のアイデアを探求することに挑戦しました。

アテネからアントワープへ、
初の個展を開催

photo credits : Jeroen Verrecht Location: Westrand, Dilbeek

カーワン・ギャラリー*2で開かれたリンデ・フレイヤ・タンゲルダーの初の個展「Rooted Flows: Solidified Reflections」のため、カッシーナは作品群を発展させる支援を行いました。トリノでの滞在成果である一点ものや限定品は、建築の断片とも、高度に彫刻的なデザインエッセイとも解釈でき、単なる家具や装飾品としての機能を超えた両義性を持っています。

photo credits : Jeroen Verrecht Location: Westrand, Dilbeek

個展では、リンデが特に好きな素材の多様性を探求する一環として制作した、無垢材、鋳造アルミニウム、吹きガラス、折りたたんだ金属のユニークな彫刻作品が並びました。彼女がもつ、モダニズムの伝統やヨーロッパ建築のルーツへの関心を反映させています。無垢の木とガラスで作られたモジュールや質感のある作品は、石積みや石工の技術への言及であり、彼女のアプローチにおける軽さと触感を明らかにするものです。また、カッシーナのためにデザインしたスツールコレクションSOFT CORNERSのうち1点を、プレビューとして作品と共に展示しました。

photo credits : Jeroen Verrecht Location: Westrand, Dilbeek
photo credits : Valentina Sommariva
soft corners designed by Linde Freya Tangelder

コレクターズアイテムから
住宅の家具まで

photo credits : Valentina Sommariva
soft corners designed by Linde Freya Tangelder

トリノで参加したレジデンス期間中に開始し、カーワン・ギャラリーでの個展用に開発した限定品の実験的事前リサーチ。最終的に石組みから着想を得た明確なフォルムの選択につながり、カッシーナはそれを工業生産に適する形で更に発展させました。

様々なレイヤーから形成された大小のオットマン/スツールは、強固な石組みのように高い安定感があります。また、このフォルムの研究は金属のオープン構造にも発展し、その結果、機能性と美しさを兼ね備えたサイドテーブルも生み出しました。オットマンの張地はリンデの感性を尊重して自然な素材や色合いを好んでおり、メタルのサイドテーブルとの対比も印象的です。
このコレクションは、2022年のミラノ・デザイン・ウィーク期間中にカッシーナ・ミラノショールームで発表され、日本でも2023年5月よりカッシーナ・イクスシーの全国直営店で展示されています。

「パトロネージュを通じて新しい才能を育てることができ嬉しく思っています。また、カッシーナの真の精神である、より良い未来を維持するためのヴィジョンが、革新と卓越性のための継続的な研究とともに完成していることを、私は強く信じています。」
Cassina CEO ルカ・フーゾ

「このコラボレーションは、コレクターズアイテムと量産家具の両方にとって非常に豊かなものです。IN Residence Design Residencyプログラムの一環であるトリノでのレジデンスの後、私は実験、模型製作、ハンドクラフトマンシップという基本的な実践を通じてより深いインスピレーションの源を形成し、それを発展させて様々な素材に変換し続けてきました。その結果、限定品、建築的、彫刻的作品の完全な作品群ができ上がりました。この集中的なプロジェクトは、カッシーナの大規模な生産に適した新しい構成、さらなる素材、形状への洞察も与えてくれました。ギャラリーのための作品と、量産のための作品との関係は、これまでにないものでした。」
デザイナー リンデ・フレイヤ・タンゲルダー

Linde Freya Tangelder
Linde Freya Tangelder

1987年、オランダ生まれ。2009年~2014年、オランダのデザインアカデミー、アイントホーフェンで学ぶ。2014年、自身のスタジオDestroyers/Buildersを設立。ベルギーを拠点に活動。

*1 IN Residence
IN Residenceは、現代デザイン研究を行う非営利の文化団体です。テーマ別ワークショップ、デザイナーのためのレジデンス・プログラム、一連の展覧会、出版物など、創造的な才能を支援し、促進しながら教育活動を行っています。 リンデ・フレイヤ・タンゲルダーのレジデンスは、2021年2月にトリノで、IN Residenceプロジェクトのキュレーターであり発起人であるバーバラ・ブロンディとマルコ・ライノの指揮のもとに行われ、デザインの文化的関連性を強調し、さまざまなレベルで開かれた対話を生み出す旅の始まりとなりました。

IN Residenceが企画・運営する様々な活動に参加したデザイナー:フォルマファンタズマ、サビーヌ・マルセリス、ミッシェル・トラクスラー、フィリップ・マルアン、ピーター・マリゴールド、ロー・エッジス、ベサン・ローラ・ウッド、スタジオ・スワイン、グリセロ、ギレルモ・サントマ、マルチン・ルサクなど

*2 Carwan Gallery
カーワン・ギャラリーは、国際的な現代デザインギャラリーのリーダーとして、東地中海を中心とした最先端のコレクティブル・デザインを制作しています。2011年にベイルート・レバノンに設立されたカーワンは、文化機関、施設、専門誌、コレクター、パトロンとの積極的な相乗効果の開発にも重点を置いています。レバノンでの約10年にわたる活動と50以上の国際展への参加を経て、2020年9月にギリシャのアテネに新しいギャラリーをオープンしました。

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