WEB MAGAZINE2025.8

NOT A HOTEL CEO 濱渦伸次さん
✖️
カッシーナ・イクスシー代表取締役社⻑ アレッシオ・ジャコメル
自然と建築、家具が調和した NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH

2025年7月に開業した、NOT A HOTELシリーズの中でも最大規模の建築である「NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH」。建築家の藤本壮介氏が設計した円形のヴィラに、カッシーナ・イクスシーが手がけた特注テーブルが採用されました。濱渦さんとジャコメルに「ラグジュアリーとは何か」また「建築にとって家具とは何か」について、本プロジェクトを通して語っていただきました。

#1

海と空に溶け込むような
円形ヴィラ

新石垣空港から車で約11分、海沿いに広がる約1万㎡の敷地に誕生した「 NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH 」。広大な敷地にたった1棟だけという贅沢なヴィラです。周囲の自然と一体となった有機的な建築を設計したのは、2025年の大阪・関西万博で会場デザインプロデューサーを務め、世界的に活躍する建築家・藤本壮介氏。ゆったりとつくられた2階のリビングダイニング、4つのベッドルームのほか、サウナや本格的なジムも完備。すり鉢状になった屋上庭園には、子どもたちが遊べるキッズプールや焚き火ができるファイアプレイスなどが点在します。

▲2階建ての円形の建物は屋根がすり鉢状の屋上庭園になっている

リビングダイニングは目の前を遮るものがなく、広がるのは水平線を一望できるダイナミックな景色。海と溶け合うようなインフィニティプールがシームレスに連続し、波の音を聞き、南国の風を感じながら、ゆったりと特別な時間を過ごせる場所です。

#2

ラグジュアリーとは時間の使い方

「少し前までラグジュアリーというと“豪華なもの”とか“きらびやか”といったイメージでしたが、今は変わってきているのではないでしょうか。僕はラグジュアリーというのは時間の使い方だと考えています。2歳の子どもと焚き火をしている時が一番幸せで贅沢な時間。

オフィスにあるプルーヴェハウスも豪華ではないけれど、僕にとってはすごく贅沢なものなんです。本を読んだり、自然の中で過ごしたり、人それぞれに大切な時間の過ごし方があって、そんな風に過ごせる場所を提供したい。だから、ホテルの建築も決して華美なものではなく、自然と一体となれたり、素材そのものを生かしていたり、それらによって生まれる居心地の良さを大切にしています」(濱渦さん)

#3

建築に呼応する、曲線が美しい特注テーブル

ダイニングの特等席に置かれているのが、カッシーナ・イクスシーが特注製作した不整形な楕円テーブル。「藤本さんが円形のヴィラをデザインしてくれたので、それに合わせてテーブルも丸みのあるものにしたいと思ったのですが、大きな曲面のテーブルが既製ではなかなか良いのがなくて…。ないなら、つくるしかない。難しい家具製作になると思ったので、迷わずカッシーナ・イクスシーさんに相談しました」(濱渦さん)

▲建築と眺望に調和するオーガニックなフォルム。半円柱のような形状の脚部が無垢の天板をしっかりと支える。
〈ダイニングテーブル〉W4500×D1479×H750×t80㎜
カッシーナ・イクスシーは今年創業50周年を迎え、イタリア・カッシーナ社の商品の一部はライセンスを取得して製造し、高い製造技術を培ってきました。また、さまざまな協力工場との連携により、既製品のカスタム変更から、プロジェクトに合わせてデザインや素材開発まで行う完全特注にも柔軟に対応できる体制が整っており、建築の意図を家具に翻訳することを得意としています。
「NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH」では、有機的なフォルムに呼応するように、曲線が美しいテーブルを手がけました。楕円を変形させたような自由なフォルムで、海に向かって緩やかにシェイプしており、海へと視線を誘うようなデザインです。

「素材感やプロポーションに対する繊細な感覚と、高いクラフトマンシップ、そして製作における確かな技術。それらを通じて、家具は単なる“もの”ではなく、空間のストーリーを支える存在になります。このプロジェクトでは、私たちなら、空間のリズムや光、自然との関係性に呼応した家具をつくることができると確信しました。そして何より、濱渦さんをはじめとするチームとのコラボレーションは、まさに共通言語があるような感覚でしたね」(ジャコメル)
▲楠の無垢材を贅沢に使用。厚みには緩やかな丸みをつけているので、肌あたりも柔らか。
#4

建築は大きな家具でもある

濱渦さんにとって、建築と家具の境界はないと言います。「建築は大きな家具であり、家具は小さな建築であり、その境目がないんです。僕が好きなジャン・プルーヴェもそうで、スタンダードチェアもプルーヴェハウスも機能がそのままデザインになっており、建築も家具もミニマルな設計思想を貫いています」

「NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH」ではダイニングだけでなく、リビングのセンターテーブルも特注製作しました。素材は木材選びからこだわり、巨木になることから日本では縁起が良いとされる楠の無垢材を贅沢に使用。楠特有の清涼感のある香りがふんわりと漂います。大きな天板は長い無垢材二枚を接いで一枚のように仕上げており、この方法なら大きなサイズを確保できます。接合部がほとんど分からず、4.5mの長手方向に木材を繋いで一枚の無垢材のように見せられるのは高い職人の技術があるからこそ。楠特有の流れるような美しい木目と節の個性を楽しむことができる、力強さと繊細さを併せ持つテーブルが完成しました。

▲リビングのセンターテーブルを特注製作。
〈センターテーブル〉 W2690×D1500×H400×t80㎜
「自然素材である無垢材の力を活かしながらも、空間全体の流れや景色を遮らず、引き立てるようなデザインにしたいと考えました。それぞれの家具は、構造体の力強さと風景の柔らかさ、その両方を映し出すように、綿密にプロポーションを調整しています。機能と造形、美しさと快適性、それらの緊張感のなかにあるバランスを目指しています。実際に家具が入ったのを見たとき、家具が主張することなく、“強さ”と“やさしさ”が同居している点が印象的でしたね。無垢材の構造的な強さを持ちながらも、どこか軽やかで、呼吸するような空間になっていると感じました」(ジャコメル)

◀︎リビングのセンターテーブルを特注製作。
〈センターテーブル〉 W2690×D1500×H400×t80㎜
#5

将来のマスターピースをつくりたい

実際に特注家具が入ったのを見て、「これしかない、と思いました」と濱渦さん。「“この建築にはこの家具しかない”と思える状態が最も美しいと考えています。名作家具は、一つの建築のためだけにつくられたものが多い。今さまざまなプロジェクトが動いていますが、特注家具を採用することも増えてきました。50年後、70年後に『これはNOT A HOTELの建築のためにつくられた名作家具だよ』と言われるようなマスターピースをつくれたらいいなと思っています。NOT A HOTELは、クリエイターが好きなこと、難しいことにチャレンジできるプラットフォームでもあると思っていて、だからこそ世の中の人をあっと驚かせるようなものをつくることができる。それはカッシーナ・イクスシーさんにとってもそうで、あんな難しいテーブルは普通つくらないですよね(笑)」

最後に今後の展望について尋ねると、「日本の価値を上げていきたい」と濱渦さん。
「海外に行けば行くほど、日本の土地や文化、クリエイターたちがリスペクトされているのを感じます。でもそれは、過去に積み上げてきたものであって、それらを取り崩したら終わりになってしまう。そうならないためにも、僕たちは改めて日本の文化、デザイン、アートに対するリスペクトを取り戻していかないといけない。NOT A HOTELがいいもの、名建築を日本中につくって、世界からリスペクトされる文化をもう一度つくっていきたいと思っています」
「シャルロット・ペリアンも日本に3年ほど滞在して、非常に日本の影響を受けており、世界の有名な建築家の多くもそうです。NOT A HOTELには、日本の自然と建築、暮らしが調和した精神が現代的なかたちで流れていると感じています。Change from Japanができると私も信じています」(ジャコメル)
▲石垣の緑と海の両方が感じられる緩やかな丘陵のようなデザイン。日差しを反射し、青い海や空との美しいコントラストを生み出す白いファサードは一面ずつ職人の手によって丁寧に仕上げられている。
▲総面積約1500㎡(屋内面積+テラス)を誇り、最大10人での宿泊が可能。
〈前編〉
クリエイティブを創発する、
複合型ワークスペース
濱渦 伸次

1983年宮崎県⽣まれ。国⽴都城⾼専電気⼯学科卒。2007年株式会社アラタナを創業。
2015年M&Aにより株式会社ZOZOグループ⼊り。株式会社ZOZOテクノロジーズ取締役を兼任。2020年4⽉1⽇NOT A HOTEL株式会社を設⽴。

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