WEB MAGAZINE2023.12

interview with
Luca Fuso & Patricia Urquiola
Written by Sara Waka

ミラノで生まれ育った日本人として、ファッションやアート界でイタリアと日本の架け橋になるような活動を行うSara Waka(サラ・ワカ)氏。青山本店のリニューアルオープンで来日したカッシーナCEOルカ・フーゾ氏とアートディレクターのパトリシア・ウルキオラ氏のインタビューを行っていただきました。

Sara Waka
サラ・ワカ

ミラノ大学卒業、アートマネージメント専攻。パリ・ソルボンヌ大学比較文化部在籍。雑誌「ロフィシャル・イタリア」フリーランスエディター。プラダ財団、美術ガイド、パリのタレント・エージェンシーと連携、国際ブランド、オンライン商品のアンバサダーなど多分野での活躍。

DIVE TO
THE CASSINA PERSPECTIVE

いわゆる典型的なデザインの「教科書」を最後に開いたのは、ミラノの大学でアートマネージメントを勉強していた時。もう10年以上も前になりますが、長い月日を経て、またデザインの世界に没頭できる機会に恵まれました。 2023年10月21日にリニューアルオープンしたカッシーナ・イクスシー青山本店は、“The Cassina Perspective(ザ・カッシーナ・パースペクティブ)”というカッシーナのデザイン哲学のもと、120年にわたるデザインの歴史が1つの空間に凝縮されています。近代建築の巨匠たちによる偉大な作品は、最先端の生産技術と素材を駆使した高い技術により復刻され、「イ・マエストリ(“巨匠たち”の意)」コレクションとして、時代を超えた文化的価値のある家具として販売されています。まさに、異なる時代やデザインを、遊び心のあるクリエイティブな方法で融合させた、類い稀なキュレーションがそこにあるのです。

デザイン好きの私は、お城に招かれたプリンセスのような気分で、おめかし完了。あいにくカボチャの馬車は渋滞に巻き込まれたようなので、愛車のフェラーリ(という名の自転車)で、ファッションやインテリアのラグジュアリーブランドが軒を連ねるエリア、南青山へ。

今回は、「カッシーナ」の代表取締役であるルカ・フーゾ氏と、フレンドリーなアートディレクターのパトリシア・ウルキオラ氏が、歴史的なアーカイブの説明だけではなく、環境に配慮したイノベーションや今後の展開まで、沢山語ってくれました。とても貴重なインタビューに触れながら、カッシーナの魔法の世界へ。
ビビディ・バビディ・ブー!

Sara Waka(以下、W):初めまして。まるでデザインの古城のようなカッシーナでご一緒できて光栄です。デザインや建築など様々なエッセンスが入っている“ザ・カッシーナ・パースペクティブ”は、デザイン大好きな私達にとっては、まるで夢の世界!ご招待いただきありがとうございます。

パトリシア(以下、P):Bienvenidas (スペイン語でようこそ)、カッシーナへ!カッシーナと日本の歴史は長くて深いのよね。この大切な関係を祝福する意味も込めて、青山本店の改装と同時に、ブランドの新しい活力を体現したいと考えたの。この店舗は、カッシーナの本質に忠実で、モダンさとコンテンポラリーなエッセンスを持ち合わせているミラノの店舗に寄せているんですよ。

W:今回のリニューアルでは、カラフルでエネルギッシュなデザイン家具が増えましたね。そのためか、なんだかワカぺディアのホームタウン、イタリアに帰ってきたような感じがします。そんなミラネーゼを連想させるカッシーナは、お二人にとってどんな存在ですか?

ルカ(以下、L):私にとってカッシーナは、偉大なアーカイブであり、120年にわたる「デザインの百科事典」です。イタリアで工業デザインを生み出し、それを世界中に輸出したブランドですからね。そして、他のブランドと同様に、カッシーナもまた、時代や世代を超えてこの重要な歴史を受け継いでいくために細心の注意を払うべきブランドだと思いますよ。

W:多くのマエストリ(巨匠たち)と密接な関係にあって、画期的でユニークなデザインを生み出してきたカッシーナは、誰もが欲しくなるアイテムが次々と出てくる、まるでドラえもんの四次元ポケットみたいですね。

P:私にとってカッシーナは、「デザインの全て」かな。何十年もの間、私たちの日常生活に寄り添ってきた、伝説となるオブジェの数々を創造してきたブランドなの。100年以上の歴史の中で、カッシーナはチャールズ・レニー・マッキントッシュからシャルロット・ペリアンに至るまで、全く異なるタイプの個性的な巨匠たちとコラボレーションしてきたのよ。カッシーナの強みは、その時代に革新をもたらしたデザインの巨匠たちによる、膨大な作品のアーカイブを持っていることじゃないかな。そして私たちの役割は、当時も今も、思いもよらない色使いや素材でエディションを作ることや、現代的なクリエーターと組み合わせることで、その破壊的で前衛的な個性を高め続けることだと思う。それがまさに、私たちの新しい“ザ・カッシーナ・パースペクティブ”の役目だと思うな。

2023年10月リニューアルオープン時|青山本店

W:「創造性」、「巨匠」、「コレクション」と聞くと、アートを思い浮かべてしまいます。アートとデザインの違いは何だと思いますか?

L:僕にとってアートは、「機能性がなくても好まれるもの」ですね。一方で、成功的なデザインは、「見て楽しいだけでなく、機能的」でなければならない。アートはユニークな作品からできているけど、デザインは多くの人が利用できて、アクセスできるものでなければならないんだ。でも、真の芸術作品となるデザインが存在することは認めますよ!結局のところ、二つは異なった概念を持つけれど、共通している部分もあるってことかな。

P:私は、アートとデザインは創造性と感性という概念で結ばれた二つの分野だと思うわ。私にとって、機能性は両方の世界に存在するの。現代アートは、私たちを考えさせ、感情を呼び起こさせる機能があるけど、デザインには、日常生活と結びついた機能性があると同時に、感情的なものもあると思う。成功するオブジェとは、人間工学的な観点だけでなく、精神的な安らぎも反映されているものじゃないかな。物事を深く考え、理解し、倫理的にさせてくれる機能や、自己の存在意義に関心をもたせてくれる機能は、デザインと同様にアートにも存在すると思います。

W:大変興味深い回答です。パトリシアはとてもクリエイティブで、カッシーナのアートディレクターを何年も務めていますが、その創造性はどこから湧いてきますか?

P:Vale (スペイン語で そうね)、私は自由に創造できるような余白を持つようにしています。自分自身が経験したものや、自然の中から感じ取れる色や質感、世界中を巡る旅、職人による芸術品や先祖伝来の創作技法に至るまで、私を取り囲む全てのものからインスピレーションを受けているかな。私が何かを創造する時は、美しいものや快適なものを創ろうとは考えずに、まだ経験したことのない空間を想像したり、新しいものを試行するように心懸けているの。

W:その言葉を聞くと、私も色々と想像を巡らせたくなってきました。カッシーナは才能のある若手デザイナーを発掘し、彼らをプロモーションしているようですが、後に巨匠となっていったデザイナーたちとの繋がりも、そういったことから始まったのですか?

L:昔に比べて今は、国境を越えて多くの企業がデザイナーにアクセスできるようになったけれど、逆に真の才能を見極めるのが難しくなってしまいました。そんな中でカッシーナは、2022年に新進デザイナーにプロダクトデザインの機会を提供する「パトロネージュ・プロジェクト」を開始したんです。これは毎年1〜2名の新進デザイナーを選び、カッシーナの製品をデザインしてもらうだけでなく、展覧会や特定のプロジェクトに出品し、世界の舞台で宣伝してもらうことを目的とするプロジェクトです。この若き才能の持ち主たちが、未来の偉大な巨匠になりますように!という願いを込めてね。
(写真左)パトロネージュ・プロジェクト第1弾デザイナー 
リンデ・フレイヤ・タンゲルダー

(写真左)パトロネージュ・プロジェクト第1弾デザイナー 
リンデ・フレイヤ・タンゲルダー

W:若手デザイナーを育成するプロでもあるなんて、デザイナー自身のみならず皆にとっての夢というか、憧れのブランドですね。今度は環境に視点を変えて、デザイン界が担う「サステナビリティに関する責任」とは何だと思いますか?

L:サステナビリティは、もはや単なるラベルではなく、すべての思考を貫くテーマですよね。2019年には、ミラノ工科大学とのコラボレーションプロジェクト「カッシーナ・ラボ」を設立しました。私たちは、長持ちするモノを生産・修理したり、さまざまな方法で再利用できる製品を作ることで、消費社会のサイクルから抜け出したいと考えています。それにカッシーナは、各オブジェに、どれだけのリサイクル素材が継続的に使用されているか、使用後の循環性の可能性を示すスコアである「循環性指標(MCI)」を作った最初の企業なんですよ。私たちは、廃棄物を再利用して新しいモノを作る方法を研究しています。

W:確かにルカの言う通り、持続可能性の問題はデザイン業界だけではなく、地球上の誰しもが持つべき責任ですよね。最後の質問は、もう何度も聞かれているとは思いますが…日本のどんなところが好きですか?

L:私は、他の国にはないディテールへのこだわりかな。些細なことでも細部までこだわる姿勢にいつも感動するし、魅了されています。

P:私は、かれこれ30年くらい日本に恋してる!私がデザインした製品の多くに日本の名前がついているのは、この国が私にとって無限のインスピレーションの源だから。住宅地にある小さなお店から荘厳なお寺まで、全てが私を刺激するのよ。

W:日本がインスピレーションの源になっているなんて嬉しいですね。今日は貴重な時間をありがとうございました。それにしても、パトリシアがデザインした素晴らしいカッシーナのチェアに座って、皆でコーヒを飲んでいたら、あまりにも快適で時間が過ぎるのを忘れてしまいました。

P:デザイン性に加えて、精神的な安らぎがいかに大切かわかったでしょう?

すっかり話し込んで、気づけば時計の針は真夜中の12時をまわるところ。ところが、カッシーナの魔法はまだ解けそうにありません。精神的な安らぎに加え、ルカとパトリシアが与えてくれたインスピレーションに包まれて、ワカペディアチームは真夜中の南青山を後にしました。もちろん、愛車のフェラーリを漕ぎながら。

The Cassina Perspective

カッシーナ・イクスシー青山本店 
グランドオープン

2023年10月にカッシーナ・イクスシー青山本店が1,2Fフロアを大幅にリノベーションし、リニューアルオープンいたします。リビング、ダイニング、ベッドルーム、アウトドアの各エリアにカッシーナの名作が揃い、カッシーナの価値観である真正性、品質、革新性、そして卓越したクラフトマンシップが十分に発揮される空間に生まれ変わります。最新作を含むトータルコーディネートによるカッシーナの世界観を、ぜひご体感ください。

カッシーナ・イクスシー青山本店
Open. 11:00 am - 6:00 pm|毎週水曜定休 (祝祭日の場合は営業)
*年末年始休業:12/26(火)~2024/1/4(木)

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