WEB MAGAZINE2022.9

本と出会うための本屋
『文喫』のブックディレクターが選ぶ
このソファで読みたい本

vol.3
ELORO
お気に入りのソファでゆったりとくつろぎながら、本のページを繰るひととき。少し早く目が覚めた日に朝の静けさを楽しみながら、柔らかな午後の日差しのなかでちょっと一息、一日の終わりには心地よく肌を撫でる夜風を感じながらーー日常を離れてほんの束の間、思考を探る旅に出る。そんな時間があることが、人生の豊かさにつながるのではないでしょうか。

東京・六本木にある「文喫」は、喫茶室を併設し、ゆっくりと本を選ぶ時間を楽しむことをコンセプトとした“本と出会うための本屋”。そんな「文喫」のブックディレクターがエローロソファの置かれた空間と持ち主の暮らしを想像しながら、それぞれのソファで読みたい本をセレクトしてくれました。


心からのくつろぎを与えてくれる、
人生の相棒

玄関のドアを開け「ただいま」と小さく自分に呟いて、まずは熱いシャワーを浴びる。部屋着に着替えたらソファに身を沈め、しばしの間目を閉じる。このソファが来てから、それが日課になった。何も考えずにいると、身体の感覚が冴えてくる。優しく身体を包み込むフェザーのクッション、スムースレザーのしっとりと柔らかな肌あたりとレザー特有のほのかな香り。仕事中はずっとオンになっているスイッチを切って、素の自分に戻るための儀式のようなものかもしれない。

そのままソファで眠ってしまいたい誘惑に駆られるが、これからが大切な自分の時間。その時々の気分によってクラシックやラテンの曲をかけながら、ワインをグラスに注ぎ、キッチンに立って軽くつまむ物を作る。昔から料理は嫌いじゃないが、このところは家にいる時間が増えて料理の腕も上がった気がする。そしてキッチンからふとリビングに目をやると見えるのは、グリーンを背景にしたソファの横顔。しなやかにカーブを描く独特なフォルムのフレームからは、草原を軽やかに駆ける駿馬を連想してしまう。食事を済ませた後は再びソファに戻り、グラスを傾けながら届いていた本を開く。日々使うほどに身体に馴染んでくるソファは、それこそ馬を乗りこなすように、徐々に自分のものになっていく感覚がある。愛着が湧いたソファと過ごす静かなひとときを、これからも大切にしていきたい。

上質な素材感と
ディテールに宿る美

ふかふかのフェザークッションが魅力的な「ELORO」。ツイストするように削り出された木製フレームに上質なレザーで包まれたクッションを収め、シート背面には張りのある厚革を贅沢にあしらっています。クラシカルで重厚な雰囲気を醸すレザークッションに対して、シャープな直線と優美な曲線を組み合わせた彫刻的なブラックフレームが、軽やかさと抜け間を演出。アーム脇から脚にかけてなめらかに入れ替わる面には、美しい陰影を宿します。一人掛けから三人掛けまで、360度どこから見ても美しいデザインは、ロドルフォ・ドルドーニによるもの。エレガントで洗練された世界観を生み出すことを得意とする彼らしく、上質な素材感と細部までこだわり抜いた造形の美しさが際立ちます。

『文体練習』

著 レーモン・クノー(朝日新聞出版)

前人未到のことば遊び。他愛もないひとつの出来事が、99通りもの変奏によって変幻自在に書き分けられてゆく。『地下鉄のザジ』の作者にして、20世紀フランス文学の急進的な革命を率いたレーモン・クノーによる究極の言語遊戯がついに完全翻訳。

「見る角度によって印象ががらりと変わる姿に、同じ意味をその文体だけで別のものに変えてしまうこの本を思い出しました。視覚的にこの実験的な試みの表現を手伝いつつ、あくまでも内容に寄り添った仲条正義によるブックデザインのストイックなかっこよさも、『ELORO』の癖をもちながら部屋に馴染むそのデザインと、すばらしい座り心地の実用性!に重なります」

『レベティコ 雑草の歌』

著 ダヴィッド・プリュドム(サウザンブックス社)

ギリシャのブルースとも呼ばれる「レベティコ」の世界を、味わい深い絵と独特の詩情で描いた傑作バンド・デシネ。自由がまさに失われようとする窮屈な時代に、あくまで我を通し続けた愛すべき人物たちの長い一日の物語。

「『ELORO』の抜け感のある絶妙なバランスが、この力強いイラストと音楽的なストーリーが魅力的なバンド・デシネに通じるものがあると感じ、選びました。第二次世界大戦前夜のギリシャで流行した、人生の可笑しみと哀しみを歌う音楽、レベティコ。風紀を乱すとして国家から取り締まりを受けながらも、音楽と自由を捨てなかった演奏家たちの一日が淡々と描写され、それを追ううちに、胸に哀切なメロディーが流れているような、不思議に穏やかな気持ちになります」

ABOUT BUNKITSU

東京・六本木にある「文喫」は、喫茶室を併設し、ゆっくりと本を選ぶ時間を楽しむことをコンセプトとした“本と出会うための本屋”です。

〒106-0032
東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
TEL03-6438-9120 
営業時間9:00~20:00(L.O.19:30)
入場料 1,650円(税込)
※土日祝は1,980円(税込)
http://bunkitsu.jp/

編集/ライター 佐藤早苗 Sanae Sato
航空会社勤務後、ハースト婦人画報社で『エル・デコ』他の編集に関わる。その後、Wieden+Kennedy Tokyoを経て、2019年よりフリーランスに。東京とミラノを拠点に、旅やインテリアなど、ライフスタイルに関する記事を執筆。
https://sanaesato.com/

今回使用したアイテム

285 ELORO
Cassina

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 このソファで読みたい本 
Vol.1 <GRAB/FORO/BIRD>

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 このソファで読みたい本
 vol.2 <MARALUNGA>