WEB MAGAZINE2022.8

本と出会うための本屋
『文喫』のブックディレクターが選ぶ
このソファで読みたい本

vol.1
GRAB・BIRD・FORO

お気に入りのソファでゆったりとくつろぎながら、本のページを繰るひととき。少し早く目が覚めた日に朝の静けさを楽しみながら、柔らかな午後の日差しのなかでちょっと一息、一日の終わりには心地よく肌を撫でる夜風を感じながら――束の間、思考を探る旅に出る。そんな時間があることが、人生の豊かさにつながるのではないでしょうか。

東京・六本木にある「文喫」は、喫茶室を併設し、ゆっくりと本を選ぶ時間を楽しむことをコンセプトとした“本と出会うための本屋”。そんな「文喫」のブックディレクターが「ixc. EDITION」 の3つのソファが置かれた空間と持ち主の暮らしを想像しながら、それぞれのソファで読みたい本をセレクトしてくれました。

GRAB home
システムソファ

何気ない日常の大切さを感じる、
真夏の午後

外には明るい日差しが降り注ぐ、夏休みの午後。リビングのすぐ脇のプールでは、日焼けした子どもたちが夏を満喫してはしゃいでいる。一端にロングシートを組み合わせたリビングのソファは、背もたれの中央が広く開いているため、外の方を向いて腰掛けることができるのも気に入っているポイントだ。子どもたちの様子を見ながら、重ねたクッションを小脇に抱えて身を預けつつ、読みかけていた本を手にとった。笑い声と、時折飛んでくる水飛沫。旅行に出かけるのもいいけれど、家で過ごすこんな何気ない時間も、子どもと私の幸せな夏の記憶になっていくのかもしれない。



モダンな空間に似合う、
凛とした佇まい

すっきりと美しい輪郭が象徴的な「GRABシリーズ」は、もともとオフィスやパブリックスペース向けソファ。シリーズを象徴する端正な表情を引き継ぎつつ、プライベート住宅に向けて開発された「GRAB home」は、背とアームにゆるやかなカーブを取り入れることで、よりゆったりとくつろげる設計に。シートを支える華奢なスティール脚が、モダンで軽やかな印象を与えます。アームの有無、コーナー用やオットマンなど、全10型のモジュールの組み合わせに加え、張地の種類も豊富。自由なレイアウトに加え、レザー、ファブリックの選び方でスタイリッシュにもエレガントな雰囲気にも。それぞれの暮らしやインテリアにフィットするフレキシビリティは、リビングの可能性を広げてくれます。

『ファンタジア』

著 ブルーノ・ムナーリ(みすず書房)

驚きと気づきにあふれたモノたちを生み出し続けたイタリアの異才、ブルーノ・ムナーリ。造形のファンタジスタが培った「クリエイティヴィティ」を育て活用する方法、幸せをもたらす創造のヒントがつまった1冊。

「子どもが遊ぶ隙間にパラパラめくることができるそれぞれの章の短さと図の多さ、キャプションの面白さがポイント。書かれている創造のヒントはシンプルなのに簡単ではなく、だからこそ古びずに生活や仕事に新たな発見を招いてくれます。想像力や創造力の種を子どもに蒔くことに尽力したムナーリの、読み方も使い方も自由なこの本を『GRAB home』と重ねて、共に次の世代の家族にも継いでいける本として選びました」

BIRD
システムソファ

本来の自分を取り戻す、
穏やかな時間

少しでも時間ができると車を走らせてやってくる、静かな山間の家。夏の間、窓の外には緑が青々と生い茂り溢れる生命力がまぶしいほどだ。一人でいるときには、クッションを重ねたソファの右端がいつもの定位置。この家のソファは緩やかに角度のついた扇型になっていて、壁付けでも、壁と平行に配置しているわけでもない。いつもと異なる位置に座ると、それだけで見える景色も変わって新鮮だ。ときどき座る場所を変えながら、鳥の声に耳を傾け本を読んでいると、次々にアイディアが湧いてくる。そして帰る頃には、自分のなかに穏やかに活力がみなぎり、また仕事をするのが楽しみになっているから不思議だ。



自由なソファから広がる、
豊かな発想

「BIRD」はその名の通り、大空に翼を広げた鳥のような伸びやかな広がりを感じさせるシステムソファ。同時に木枠をベースにした厚みのある造りは、インテリアの主役に相応しい存在感を発揮します。ベーシックな一人掛けや二人掛けのパーツはもちろん、脚を投げ出してくつろげる「ロングシート」、新たに「アングルシート」「台形エクストラシート」が加わりました。これによりL字のコーナーソファだけでなく、扇型など、これまでにないゆるやかなアングルを作ることが可能に。シートに斜めに腰掛けてクッションに身体を委ねたり、横になって寝そべったり。組み合わせ次第で、座る角度や方向も自由なソファが、新たなくつろぎやコミュニケーションの形を生み出します。

『まばたきとはばたき』

著 鈴木康広(青幻舎)

ありふれた日常に潜む小さな発見や自然現象に着目し、身近な素材とテクノロジーを用いて人間の五感に訴える作品を発表する鈴木康広。国内外から熱い注目を浴びるクリエイターの作品集。

「『BIRD』と“はばたき”とタイトルがかかっているのはもちろんですが、「ソファが部屋の形に沿うのではなく、『BIRD』を置くことで部屋に新しい視点をもたらし、レイアウトの可能性を広げる」というお話が素敵だったので、既成のものを発想の転換で作り変えていく作品がたくさん載っているこちらを選びました。航跡がひらかれていくジッパーのように見える《ファスナーの船》や、火を灯すことで窪み、そこに溶けた液状の蝋を自分が掬い上げたように錯覚してしまう《スプーンの蝋燭》……知識が積もれば積もるほど、新しい視点から見える世界は新鮮に感じられます。大人にこそ開いてほしい自由帳のような作品集です」

FORO
システムソファ

大人数でも一人でも、
それぞれの心地よさ

友人を招いてのホームパーティ。ダイニングで食事を終えると、皆が飲み物を片手にこのソファで思い思いにくつろいでいる。どんな角度からも座れるオープンなデザインだから、自由な座り方ができて会話も弾むみたいだ。そんな様子の彼らを見ていると、なんだかとても幸せな気持ちになる。シートバックにはブラウンのレザー、ソファ本体にはベージュのファブリックをそれぞれ張り分け、クッションカバーも同系色でまとめているのが、私なりのこだわり。ひとりでいるときには、床に座ってシートを背もたれに読書やメールチェックをすることも。きちんとソファに座ればいいのに、なんだか安心するんですよね。



柔らかな曲線で構成された、
エレガントなソファ

ラテン語で「広場」を意味する「Foro(フォロ)」は、英語の「Forum(フォーラム)」の語源でもあり、旧ローマ帝国の都市における社会の中心となっていた場所。公開討論会や市場が開かれ、常に多くの人が集まり賑わう空間でした。多目的に使われる空間をイメージしたソファは、シリーズのテーブルを組み込むこともできる自由度の高い設計で、家族や友人が集まるリビングにぴったり。柔らかな丸みを帯びたライン、シートとバックレストを別々に組み合わせることで広がるバリエーションが特徴です。さらにこの夏から奥行きの深いシートも登場し、さらに多様な使い方が可能に。デザインはイタリア・ミラノを拠点にするデザイナー、フランチェスコ・ロタが手がけています。

『この道、一方通行』

著 ヴォルター・ベンヤミン(みすず書房)

『パサージュ論』や『複製技術時代の芸術』で知られる、第二次世界大戦の始まりにその命を終えたベルリン生まれのユダヤ人哲学者、ヴォルター・ベンヤミン。彼による、実らなかった恋の相手に寄せた散文集。

「『FORO』という名前とその由来から、同じく人が集まり通過していく場所であるパリのパサージュとそれを論じたベンヤミンの『パサージュ論』をまず連想しました。しかし、パサージュは流行の先端の店が並び歩く人々に夢を見せてくれる、けれど通過していく場所です。生活の中にあるソファで読む本としては、パサージュの夢を論じようと膨大な原稿を残していたベンヤミンが、その傍らで戦争を目前に変わっていく生活や眠るときに見る夢の話を好きな人にあてて綴ったこちらがふさわしいと思い、こちらを選びました。彼特有の一筋縄ではいかない文体で、ラブレターとしては全体的に癖が強く、たとえばこんなたった一行がいきなり登場したりします。“相手のことをよく知っているのは、希望なしにそのひとを愛している、そんなひとだけ”。想い人を前に装ってしまう自分も、それでもこぼれてしまう素直な自分も書かれた一冊は、きっとこのソファを選ぶ方にも楽しんでいただけると思います」

ABOUT BUNKITSU

東京・六本木にある「文喫」は、喫茶室を併設し、ゆっくりと本を選ぶ時間を楽しむことをコンセプトとした“本と出会うための本屋”です。

〒106-0032
東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
TEL03-6438-9120 
営業時間9:00~20:00(L.O.19:30)
入場料 1,650円(税込)
※土日祝は1,980円(税込)
http://bunkitsu.jp/

編集/ライター 佐藤早苗 Sanae Sato
航空会社勤務後、ハースト婦人画報社で『エル・デコ』他の編集に関わる。その後、Wieden+Kennedy Tokyoを経て、2019年よりフリーランスに。東京とミラノを拠点に、旅やインテリアなど、ライフスタイルに関する記事を執筆。
https://sanaesato.com/

今回使用したアイテム

GRAB home
ixc.
BIRD
ixc.
FORO
ixc.

『文喫』ブックディレクターが選ぶ
 このソファで読みたい本
 vol.2 <MARALUNGA>

『文喫』ブックディレクターが選ぶ
 このソファで読みたい本
 vol.3 <ELORO>