MASTERPIECE IN DAILY LIFE

1927年にイタリアで創業し、モダンデザインの代名詞となる家具を数多く創造してきたカッシーナ。
中でも往年の巨匠たちによる歴史的名作を集めたのが「イ・マエストリ・コレクション」です。
時代を超えて愛されるデザインは、その背景に豊かな思想や物語があります。
日常の空間にあることでいっそう輝きを増す、そんなマスターピースをご紹介します。

vol.6635 RED AND BLUEレッドアンドブルー ラウンジチェア
DESIGN : GERRIT THOMAS RIETVELD

635 RED AND BLUE レッドアンドブルー ラウンジチェア

本質を見きわめ、形にする意志。

人々がつくるものの伝統的な形態を、近代の視線により捉え直し、本質へと辿り着くこと。20世紀のモダンデザインは、そう定義できるかもしれない。オランダのヘーリット・トーマス・リートフェルトが1918年にデザインした「レッド&ブルー」は、そんな意味でモダンデザインの本格的な幕開けを告げる一脚だった。この椅子の原型は、リクライニングした背もたれとアームレストのある典型的なイージーチェアだろう。その形態が、直線と平面のみによって美しく抽象化されている。

GERRIT THOMAS RIETVELD ヘーリット・トーマス・リートフェルト

レッド&ブルーは17点の木のパーツでできている。フレーム部分は水平垂直に構成され、背もたれと座面のみ板を斜めに配置。最初に制作された時は無塗装だったが、その後にパーツごとの塗り分けが試みられ、1923年頃に赤、青、黄を大胆に取り入れることによってデザインの抽象度をいっそう高めた。最近、カッシーナが製品化した「ブラック レッド&ブルー」は、1920年にゼルマーカー邸のためにブラック、ホワイト、グリーンに塗り分けた貴重なモデルの復刻版だ。

RED & BLUE レッド&ブルー

ただし抽象化されていても、レッド&ブルーはあくまで彫刻でなく、イージーチェアであることが意図された。アームレストにはフレームと幅の異なる板を使い、背もたれと座面の幅もわずかに違う。もともと木工家具の職人として出発したリートフェルトは、規格サイズの木材をカットして組み上げると完成する、効率のいい椅子としてレッド&ブルーを発想した面もある。その姿勢は、後に発表した輸送用木箱を素材とするローコストの椅子などにも受け継がれた。

この椅子の発表とほぼ同じ1917年、オランダではデ・ステイルという芸術運動が起きた。リートフェルトはその初期からのメンバーで、彼らは水平垂直の構造や赤青黄といった原色を美術、建築、グラフィックなど多方面に応用する。レッド&ブルーは、画家のピート・モンドリアンの絵画とともにデ・ステイルの象徴になった。独特の色使いはデ・ステイルからの影響だが、一方で構造やフォルムについては、リートフェルトの発想がデ・ステイルを先駆けていたと考えられる。

RED & BLUE レッド&ブルー

リートフェルトのもうひとつの代表作「ジグザグチェア」は1934年発表。この椅子で彼は、ダイニングチェアを抽象化するとともに、脚部をキャンチレバーとして最小限の構造に挑んだ。ジョイントに大きな負荷のかかるこの椅子を、彼はデザインの実験と位置づけたようだが、その革新性にもやはり大きな価値があった。主要なパーツに木を用いたのも彼らしさだろう。

1921年にドイツのバウハウスで家具が展示されたことから、リートフェルトの作風はバウハウス周辺のデザイナーたちに大きな影響を与えた。その後のモダニズムの広がりの中に、彼の精神は生き続けていく。現在においても、デザイナーはしばしば既存のものの抽象化を図り、形態の本質を探ろうとする。そのアプローチの原点には、リートフェルトがいるとも言える。