WELCOME HOME Interview

Photo:Taro Hirano(model)、Yataro Matsuura(object)
Edit&Text:Yu-ka Matsumoto

憧れのあの人は、どうしてあんなに素敵なんだろう? そんな疑問をインテリアから紐解く「WELCOME HOME Interview」。第三回目にご登場いただくのは、文筆家、編集者、古書店オーナーなど多くの顔を持ち、わたしたちの暮らしに寄り添う発信を続ける松浦弥太郎さん。やわらかくていねいに綴られる文章はもちろん、その佇まいやモノを選ぶ審美眼にもファンの多い松浦さん。仕事場にもその独自の美学が詰まっていました。「何を置くかよりも、目に見えないスペースが大事」と話す、その真意とは? オーナーである中目黒の古書店「カウブックス」で、松浦さんの切り撮ったご自宅の写真を見ながらお話を聴いてきました。

vol.3モノ本来の美しさを引き出す空間づくり
YATARO MATSUURA(WRITER / EDITOR)  場所:自宅、カウブックス

日々の生活や暮らしに関するエッセイを長年にわたり綴ってきた松浦さんに、“理想のインテリア”について問いかけると、意外な答えが返ってきました。「僕にとっては、置かれている家具や雑貨よりも、そこにあるスペースの方が重要な気がします。目に見えないスペースがどれだけあるか、そのスペースをどれだけ確保できるか、ということですね。心地よさって、空間のことだと思うんです。自分の立つ場所とモノとの間に一定のスペースがあって初めて心地いいと感じる。僕にとっての贅沢は、高価な家具を買うことじゃなく、何もないスペースを持つってことなんです」。その哲学は、お店作りにもいかされているといいます。「この店(カウブックス)でいうと、売り上げのことを考えるなら、いまテーブルを置いているこの場所に本棚を置いたほうが絶対にいいんです。でも、そうすると本は売れるかもしれないけど、僕としては心地いい空間とは呼べなくなる。本が売れることよりも、そこが心地いい空間であるということのほうが僕にとっては大事なんです」。

松浦弥太郎さん

モノよりも空間を大切にしたいという松浦さん。だからこそ、家具を迎え入れるときには何やらこだわりがあるようです。「空港に名作と呼ばれるようなソファや椅子が置いてあるとすごくかっこいいですよね。天井が高くて、広い空間があって、ポツンとソファが置いてある。それを素敵だと思って家に持ち帰っても、がっかりすることが多いんです。家具を置くにしても、絵や写真を飾るにしても、広い空間がないとなかなか難しい。そのものの良さを生かしきれないんですよ。 だから家具を買うときには、それを置いてかっこいいだけの空間も含めて検討します。お金を払えばそのモノ自体は買えるかもしれないけど、空間も含めて準備しないとそのモノの持つ本当の美しさは手に入らないですから。そうやって集めたいいモノに囲まれていると、モノから『あなたの考える豊かさとはなんですか?』って問われているような気持ちになるんです。そうすると、自分の意識や学び方も変わってきます。モノはいつも考えるきっかけを与えてくれますね」。

4ELEMENTS
松浦弥太郎さんのインテリアを構築する4つの要素

LUCIE RIE
LUCIE RIELUCIE RIE
「イギリスの作家、ルーシー・リーの器を少しずつ集めています。器は使ってみて、その美しさがわかるものです。ですから、僕はどんどん使うようにしています。使うと、作家がどんな思いで、また、どんな考えで作ったのか、その魅力が実感として伝わってきます。人間関係と同じではないでしょうか。付き合ううちに、その人のいいところも悪いところも見えてくる。ルーシー・リーは、繊細ですから割れやすいけれど、割れたら、金つぎして直せばいいんです。とにかく気に入ったものは使って、感動することが何よりだと思います」。
TEDDY BEAR
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旅先で出会って購入することが多いというアンティークのテディベア。「男なのにテディベアなんてっていう人もいるかもしれないけど、昔から好きなんですよね。こういうものを見ていると、自分も昔は子どもだった、ということを思い出させてくれます。このピンクのテディベアは、アーティスト・ベアですが、作家は残念ながらもうお亡くなりになりました。これは生前に会いに行って、直接本人から買ったものです。食材でもなんでも、作っている人から買うっていうのが一番いいですよね。そういうものには目に見えない豊かさがあるような気がします」。
PICTURE
PICTUREPICTURE
「これはとても気に入っている絵です。飾る場所や構図はすごく計算しますね。光の入り方ひとつとっても、どこにどう飾ったらこの絵が一番映えるだろうかって考えています。そうやってひとつひとつ神経を使わないと、なかなか自分の居心地のいい空間は手に入らないんですよ。どうしたらよりよく暮らせるだろうということを四六時中考えて、一生懸命仕事をして、少しずつ生活水準を上げていく。そうすると不思議と欲しかったものをくれるっていう人との出会いがあったりもします。自分が憧れているものや、学びたいものからいつもこころを離さないようにする、ということかな」。
GOODS
GOODSGOODS
リビングの本棚の一角には、旅先で出会った小物や、普段身に付けるものをさりげなく飾る。松浦さんの審美眼によって選ばれるモノの基準とは? 「モノを選ぶときには、その時の自分より少し背伸びをして、いいものに触れるようにしています。使ってみないとわからないことってたくさんあるんです。だから、背伸びしてでもそれを自分の暮らしに取り入れて、いろいろなことを学びとることが大切だと思います。直接触れて感じたこと、それは本のどこにも書いていない、自分が体験して、実際に学びとった完全な一次情報ですから」。

ブックスタンド

「これは昔、暮しの手帖社が発案したブックスタンドです。佇まいが素敵ですよね。僕は家にはほとんど本を置いていないんですよ。若い頃には本に囲まれた生活に憧れて、実際にそういう部屋に住んでいたこともあるんですが、今は仕事で関わるようになったからか、本がない部屋が心地いいと思うようになりました。家には今読んでいる本しか置かないようにしています。だから、これくらいの本棚があれば、それで十分ですね」。

松浦 弥太郎 YATARO MATSUURA
「暮しの手帳」編集長を経て、現在、毎日の生活に役立つコンテンツを紹介するウェブサイト「くらしのきほん」を主宰。文・写真すべてを手がける。数多くの著書を執筆するほか、雑誌の連載やラジオ出演、講演会など、多岐にわたって活躍。中目黒のセレクトブックストア「カウブックス」代表でもある。
https://kurashi-no-kihon.com/
松浦 弥太郎