SYNC
design : Keita Suzuki &
PRODUCT DESIGN CENTER
2024年7月にixc.の新作コレクションに加わった「SYNC(シンク)」は、現代のワークスタイルに対応する革新的なプロダクトです。このコレクションは、国内外で高く評価されているデザイナー、鈴木啓太氏との協業により誕生しました。鈴木氏は働く空間とリラックスする空間の融合を目指し、さらにパンデミック後の新たな生活様式に適応した家具を生み出すため、深い思索と独自の視点をもって開発に取り組んできました。
本インタビューでは、「SYNC」の開発背景やデザインへのこだわり、鈴木氏の創造性の原点について詳しくお話を伺いました。
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CONCEPT & STORY
SYNCは、「集中と解放」をコンセプトにデザインされた家具コレクションです。集中とは、仕事や作業に没頭している時間や内省状態を指し、解放とは、人とコラボレーションする時間や休息状態を指します。パンデミックを経て今、オンとオフの境界が曖昧になり、集中できる場所が少ないという問題を解決する「集中と解放」のグラデーションを家具を使ってデザインしました。ライフスタイルの変化と向き合う家具を、カッシーナ・イクスシーと協力し、じっくりと時間を費やして作り上げることができて嬉しく思っています。
ラインナップはソファ、ベンチ、テーブル、パーティション。これらの家具は、組み合わせることで思い思いの集中と解放の環境をデザインすることができます。特にシグニチャーとなる1Pソファは、正面を向いて座ればPCの作業に最適で、体の向きを変えれば脚を伸ばしてリラックスすることも可能。美しい木製のデザインのなかに、現代のライフスタイルに対応する機能性を散りばめました。
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DESIGN ESSENCE
特にこだわったのは、テクノロジーと手仕事を融合させた、美しい形と仕上げです。フレームは木製で、ソファのバックパネルやパーティションには編んだラタンを使用。ラタンは、人の目線が気にならない高さと網目の細かさを持ち、風や音を適度に透過し、圧迫感のない心地よい空間を作り出してくれる素晴らしい素材です。
また、現代のデジタル・ライフスタイルに対応するため、家具には電源ユニットを設けました。フレームは2色展開で、さまざまなファブリックと組み合わせることで、顧客自らが空間をデザインできるようにしています。
各家具のラインナップは非常に機能的にデザインされ、またその仕上げは彫刻のように美しい。SYNCが目指しているのは、そんな21世紀の創造の時代にふさわしい家具です。人々の想像力を引き出し、クリエイティビティを高める存在になると思っています。
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INSPIRATION
デザインを考えるとは、人間の暮らしを考えること。そのため日常のさまざまな事柄からインスピレーションを得ていますが、人と風土が作り上げてきた歴史は、私の創造の源泉だと思います。そこにはいわゆる「デザイン」だけでなく、幼少より祖父の美術コレクションに触れることで芽生えた工芸への興味も反映されています。脈々と続く創造のヘリテージを見ながら現代を捉え、未来を構想してデザインすることが好きですね。
例えば、私は作られた時代や地域、素材や技法が違う家具たちを、さまざまに混ぜて暮らしています。過去の傑作や、名もなき名品たちから素晴らしい影響を受けながら、そこに留まらず、新たな価値を創造できたらと常に思っています。そうしたヘリテージをいかしたデザインは、海外ブランドとのプロジェクトで顕著に現れることが多いかもしれません。海外ブランドからは「自分たちの知らないものを提案してほしい」と言われることが多くあり、最先端のものから古典的なもの、土着的な暮らしや工芸まで、多様な提案を心掛けています。
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NEW INSIGHTS
今回は非常にエキサイティングな挑戦でした。様々な側面がありますが、カッシーナ・イクスシーとのコラボレーションは大きな意味を持ちました。クラフトマンシップとデザインの融合は、もの作りに対する姿勢が共有できなければ難しい試みですが、経験豊富な日本の家具メーカーとの協業はとても有意義であり、デザインの固定観念を超えるプロジェクトを今後も一緒に進めていけると確信しました。
また徹底的に「現代のライフスタイルと向き合うというデザインの役割」を追求できたことにも可能性を感じています。私が常に目指してきた「機能的かつ美しいデザイン」の新しい姿を、我々のデザインチームと共に、実際の生活空間になじんで機能する家具に落とし込めたと思っています。
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ASPIRATIONS
個人的にいつも大切にしているのは、堅実なイノベーションを起こし、今描ける最上の美や機能をつくりだすこと。伝統文化を背景にもつ方々や老舗ブランド、ラグジュアリーメゾンから求められていることも全く同じで、歴史を進めていけることにやりがいを感じています。
そのうえで特に今注目しているのは、手仕事がつくってきた工芸。私が幼少時から尊敬の念(と少しのライバル心)を抱いてきた工芸の、本質と可能性を今一度とらえ直したいと思っています。日本から大量生産のものづくりが減少するなか、素朴で純粋なものから技巧を凝らしたハイエンドな作品まで、地域の風土と土着文化から生まれる工芸は、これからの美しい世界をつくる鍵になるはずです。
プロダクトデザインだけでなく、空間やヴィジュアルを含めた、世界観の表現を追求しつつ、単なる賑やかしのデザインではなく、次の時代へと繋がっていく家具と工芸との融合を模索していきたいです。
Keita Suzuki &
PRODUCT DESIGN CENTER
プロダクトデザイナー、クリエイティブディレクター。
古美術収集家の祖父の影響で、幼少より美術工芸に興味をもつ。日用品から公共デザイン、森林活用、ラグジュアリーブランドや伝統工芸との協業、また3Dプリンティング等のアディクティブ・マニュファクチャリングまで幅広い分野に精通。100年後も続く美意識と機能性が融合したデザインを目指し、国内外でプロジェクトを手がける。
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