WEB MAGAZINE2022.9

本と出会うための本屋
『文喫』のブックディレクターが選ぶ
タイムレスな本“3選”

vol.4
The Classic and Beauty


名作家具と暮らす

長い時を経て今なお多くの人に愛され続ける、名作家具。名作家具に明確な定義はありませんが、名作家具と呼ばれるものを見ていくと、共通項が浮かび上がってきます。



まず、機能性や耐久性を備えた高い品質。椅子であれば、一般的に安定して心地よく座ることができ、長く使い続けられる丈夫なものであること。次に、デザイン性。奇をてらったり、トレンドとして消費されてしまう一過性のものではなく、時を経ても変わらないタイムレスな美しさが存在しているということ。さらに革新性。従来にない視点や発想により生まれるフォルムや使い方、新たな素材や技術を取り入れることで人々の暮らしを豊かにするということ。

1)MARALUNGAもDOMO FLOOR LAMPも、60〜70年代に新しいライフスタイルを提案しようと生みだされたもの。「今までにない」ということはいつの時代も人々を惹きつける魅力となり、色褪せずに受け継がれていく。MARALUNGA ソファ2人掛ワイド¥902,000(税込)


どんな名作も、発表された当時から名作であったわけではありません。長い時間をかけて広く愛されてきたという事実があってこそ、今日の名作としての地位を獲得しているのです。同様に、新たに生まれたものであってもそうした条件や魅力を備えたものは、未来の名作になっていくことでしょう。

2)<四本脚><座面><背もたれ>という、シンプルな椅子の形。無駄をそぎ落として現れる究極の美しさをまとわせるのは、全体を包む上質なレザーと見えないところにまで施された繊細な職人技。CABアームチェア¥363,000(税込)

3)家具は、実用的なアートピース。木や革の経年変化はひとつとして同じものはなく、使う人の歴史が積み重なっていくことで何物にも代えがたい価値ある存在に。CAPITOL COMPLEX ARMCHAIR¥561,000(税込)~/TABOURET MÉRIBELスツール(茶)¥165,000(税込)/TABOURET BERGERスツール(黒)¥132,000(税込)

家具はアートではなく、あくまで機能を備えた道具です。眺めていて美しいだけではなく、実際に使い、ともに時間を過ごすことでこそ、その本当の価値がわかるというもの。なかでも椅子は、座るという行為を通して人と一体になり、身体の延長のような存在でもある、もっとも身近で特別な家具。一脚でも空間の印象を左右する存在感があり、バリエーションも豊かで、コレクターをはじめ多くの人を魅了してきました。

造形の美しさに加えて、選び抜かれた上質な素材、職人の手仕事による仕立てのよさなど、ディテールからも感じられる美しさ。さらに自然素材を用いた家具は、経年変化を楽しみながら育てていくことができるのも魅力です。例えば使い込むほどに身体に馴染み、味わいを深めていくレザーの質感。愛着をもって大切に使うことで家具との関係性が育まれていき、思い出とともに次世代に受け継いでいくこともできるのです。

『あおくんときいろちゃん』

著 レオ・レオーニ (至光社)

「スイミー」で知られる絵本作家のもう一つの代表作。

物語のテーマである「だいすきな人とずっと一緒にいたい」という気持ちも、それを持つ登場人物たちのフォルムもとってもシンプル。ですがその伝え方に驚かされます。だいすきな人に会えたのがうれしくて起こるその不可思議な展開や、紙をちぎったあとが残るまるたちの質感。シンプルでも真似ができないというこの本の魅力は、タイムレスに愛されるもの全般に共通するのではないかと思い選びました。

『茶と美』

著 柳宗悦 (講談社)

民藝運動の主唱者として日本各地の民藝をあいした柳宗悦が茶の心、美の本質を語る美術評論集。

冒頭にある“「美を観る」ことは「美を知る」よりも前に行われなければならない“という一行は、日本各地を巡り土地それぞれの民藝を知り”作り手“ではない立場で語り広めてきた柳宗悦だからこその説得力があります。知識より理屈より、直に観て、できれば触れて、そのものの美しさを感じるこころを磨くこと。この選書を目にする方は作り手よりも受け手、ものを使う側、観る側の人々が多いだろうと思ったので、”作り手のこだわり“を観る”受け手としてのこだわり“を知ることができる一冊として選びました。

『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』

著 河尻亨一 (朝日新聞出版社)

資生堂の広告デザインをはじめ、映画や舞台の衣装や美術も手掛けたアートディレクター初にして現在唯一の評伝。本人の言葉でないからこそ語られるその情熱の物語。

タイムレス、という言葉から真っ先に思い出してしまった本です。とにかくかっこいい。アーティストの姿勢と発言を徹底的に、ただただ納得させてくれる仕事の数々。分厚い本ですが、小説のように楽しく読めます。

ABOUT BUNKITSU

東京・六本木にある「文喫」は、喫茶室を併設し、ゆっくりと本を選ぶ時間を楽しむことをコンセプトとした“本と出会うための本屋”です。

〒106-0032
東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
TEL03-6438-9120 
営業時間9:00~20:00(L.O.19:30)
入場料 1,650円(税込)
※土日祝は1,980円(税込)
http://bunkitsu.jp/

編集/ライター 佐藤早苗 Sanae Sato
航空会社勤務後、ハースト婦人画報社で『エル・デコ』他の編集に関わる。その後、Wieden+Kennedy Tokyoを経て、2019年よりフリーランスに。東京とミラノを拠点に、旅やインテリアなど、ライフスタイルに関する記事を執筆。
https://sanaesato.com/

今回使用したアイテム VICO MAGISTRETTI

053 CAPITOL COMPLEX
ARMCHAIR
Cassina
413 CAB
Cassina
675 MARALUNGA
Cassina

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Vol.1 <GRAB/FORO/BIRD>

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 vol.2 <MARALUNGA>

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 vol.3 <ELORO>