WEB MAGAZINE2023.1

さまざまな美が交錯する
変化に富んだ空間デザイン
日本ロレアル株式会社

「世界をつき動かすような美の創造」をパーパス(存在意義)として掲げる日本ロレアル株式会社様は、1963年日本で事業を開始。2006年に新宿パークタワーへ本社を移転し、今回初となる大規模改装を行いました。「縁-EN-」というコンセプトのもと「ビューティーバレー」と名付けられた改装後のオフィスは、日本という国、お客様、お取引先各位、社員との「縁」をつなぐ美が生まれる場所にしたいという想いが込められています。カッシーナ・イクスシーでは、既成家具に加え、化粧品の容器をアップサイクルさせた特注家具を担当。今回、本プロジェクトのデザイン監修を行なった株式会社ザ・デザイン・スタジオのご担当者様に、ロレアル様の掲げる「美」と日本という国、お客様、お取引先、社員をつなぐ「美」をどのようにミックスし昇華していったのか伺いました。

美 × 日本らしさ

このプロジェクトはコロナ禍の真っ只中で、日本ロレアル様も試行錯誤している中でのスタートでした。日本ロレアル様は新しいオフィスで新しい働き方を実現したいという想いがあり、変化し続ける働き方に対応していく必要がありました。

グローバルカンパニーですので当然デザインガイドライン等もありましたが、大切なこととしていただいていたのは、日本という国のオリジナリティを取り入れ、ロレアルグループが考える美を表現すること。オフィスは単なる働く場所ではなく、アイデンティティやブランディングを通した表現の場所である。新しいオフィスから日本の美を世界へ発信していっていただきたいとメッセージを込めてデザインしていきました。

株式会社ザ・デザイン・スタジオ / 富本 亮太氏

「日本らしさ」については、まず日本とロレアルの共通点を探るところから始めました。 化粧品は、使用する人々の内面から美しくしてくれるもの。秘められた美を表現する。そういった真の美しさを追求するという点で、「本物の美しさを愛でる」というキーワードに辿り着きました。

廃棄前の製品を
空間へ美しく昇華させる
ー風土を愛でるー

自分たちが住んでいる土地の美しさ、いわゆる「サステナビリティ」に対してロレアル様の意識がとても高く、本プロジェクトの中でも一つのキーワードとして非常に意識されていました。

カフェ内のベンチ背面、側面ともに緩やかな曲線形状となっており、左官材であるオルトレマテリアを採用して実現した。そこに、廃棄前の化粧品パッケージが粉砕して使用されている。完成形に至るまでには様々な試行錯誤があった。

その一つとして化粧品のアップサイクルプロジェクトに取り組んでいます。以前に、化粧品廃棄の課題に取り組んでいるという話を伺っていたので、今回のプロジェクトでアップサイクルにチャレンジしてみませんか?と持ちかけたのがきっかけでした。左官仕上げを利用したのは、「本物の素材感」と「日本らしさ」というキーワードのなかで、伝統工芸を取り入れるというアイデアからきています。

砕き入れたパッケージを散りばめ、ロレアル傘下のブランドである「ロレアル パリ」のブランドロゴがキラキラと光る。オルトレマテリアとパッケージを平滑に研ぎ出し、異素材のコントラストでよりパッケージの輝きが増すよう仕上げている。

砕き入れたボトルが散りばめられ、所々でロレアルのロゴがキラキラと光る

Photo: Shogo Shimoda

チャレンジを決めたものの、化粧品のアップサイクル実現は大変でした…(笑)オルトレマテリアの試作には1年近くかかりましたね(笑)アップサイクルはリサイクルとは違い、美しく昇華されなくてはならないと。ただ環境に配慮して廃材を利用しました、ということだけではなく、より美しく姿を変えることで日本ロレアル社員にとっても感動が生まれ意味があるアクションになるはずだと、クライアントとよく話をしていました。沢山の方々にご協力いただき試行錯誤した時間は非常に長かったですが、それでも最後まで諦めずにチャレンジしてよかったなと思います。

ハンマーで叩いただけでは、潰れた部分が白く濁ってしまい、粒の大きさも非常にまばらになってしまうため、大まかに砕いたあとは粒の大きさや形状に気を使いながら一つ一つニッパーでカットしていく。

ハンマーで叩いただけでは、潰れた部分が白く濁ってしまい、粒の大きさも非常にまばらになってしまうため、大まかに砕いたあとは粒の大きさや形状に気を使いながら一つ一つニッパーでカットしていく。

Photo: Shogo Shimoda
Photo: Shogo Shimoda
Photo: Shogo Shimoda
Photo: Shogo Shimoda

パッケージの粒が入る分塗装の厚みが増し、乾燥やひび割れなど、仕上げの難易度も上がる。そのため何度も試作を重ね、最適な塗厚と回数を導き出し完成度を高めた。厚塗りした左官材に粒を丁寧にバランスよく埋め込み、表面を平滑に研ぎ出している。ロゴを下向きに埋め込み、研ぎ出す際に消えないよう配慮したことで、ロゴの輝きを美しく生かした家具へとアップサイクルさせた。

日本の四季を
デザインソースに
ー自然を愛でるー

「本物の美しさを愛でる」というキーワードを表現するにあたって、「日本の四季」がカラーリングの重要なファクターとなりました。今回オフィスを仕切っていた壁を取り払い、社員同士の縁をつなぐことのできる空間設計としたので、移動している道すがら、四季の変化を感じてもらいたいと考えていました。日本の四季は本来徐々に移ろいゆくものです。わかりやすくメリハリある色の違いではなく、グラデーションのあるカラーリングを色表現として進めていきました。

四季ごとにゾーン分けされたファブリック。

また、会議室は全て花を中心とした植物の名前になっているのですが、それはロレアルの化粧品に使われている植物由来成分の名前が使用されています。今回のオフィスでは多数のファブリックで四季の彩りを表現しているのですが、カッシーナ・イクスシーの製品で採用したMEMBRANE(メンブレン)も、ほぼ全てが違う張地を使っています。各張地の適応可否や納期調整なども大変だったと思います。インテリアのベースになる木材や壁の色も四季によって少しずつ変化させているのですが、そんな些細な変化も、普段からとても繊細な色を扱っているロレアルだからこその表現ですね。

四季ごとにゾーン分けされたファブリック。

窓際はMEMBRANE一択でした。生地の張り分けができるという点と、ハイタイプとミドルタイプがあったこともありますが、個人的に椅子を選ぶ上で意識するのが後ろ姿です。今回は窓際なので特に後ろ姿が重要で、MEMBRANEを選びました。もちろん座り心地もご納得いただいた上で選定しています。

後ろ姿が特徴的なMEMBRANE〈メンブレン〉 チェア(左)とカウンターチェア(左)。背と座の生地を張り分け、エリアごとに移ろいゆく四季の繊細な色を再現している(下)。

ビューティーバレーを
体現したマーチャンダイジングエリア
ー人を愛でるー

ビューティーバレーという新オフィス名称を体現する代表的なエリアのひとつが、日本ロレアル様の主要流通チャネルのひとつである百貨店の店頭スペースを再現したエリアです。ワンフロアの中に複数のブランドが入居するという条件を活かし、マーチャンダイジングエリアを一つに集約することによって、一つのブランドだけではなく、“グループとしてのロレアル”を感じられる空間にしようと考えました。

美の創造を行う会社だからこそ、日常的に自社ブランドを体感したい、もっとブランドをよく知りたいという社員の皆さまからの声を受け、消費者の方々が日本ロレアル様の製品に触れる場をオフィスに再現し、オフィスの中央/交差点に配置しました。「日本ロレアル」としての一体感を感じられるよう、百貨店流通のブランドの各店頭ディスプレイをひとつのエリアに集約しています。部署やブランドといった垣根なく、日本ロレアル様の社員皆様が、コミュニケーションをとり、縁を結び、刺激しあえる空間をつくりたいと考えたんです。什器の前にはミーティングセットを設置し、また大型スクリーンも設置するなど、社員の宿り木や集いの場となるような工夫があちこちに施しています。

Photo: Shogo Shimoda

今回このプロジェクトを進めるにあたり、ロレアル様とは素晴らしいディスカッションができました。皆さん本当にデザインが大好きなんです(笑)常に美しいものに触れている方々なので、非常に高いレベルのなかで、デザイナーとしての力量を試される場が多かったと感じています。

Photo: Shogo Shimoda

株式会社ザ・デザイン・スタジオ /
富本 亮太
デザイン・チーム・リーダー/シニア・プロジェクト・デザイナー
多種多様なクライアントのオフィスを手掛け、日経ニューオフィス賞やグッドデザイン賞をはじめ、デザイン賞受賞多数。
企業ブランディングの根幹としてのオフィスづくりを心掛けている。
https://www.tds-tokyo.co.jp

今回使用したアイテム

MEMBRANE
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MEMBRANE counter chair
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WOK 535
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FLOW
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BOOMERANG counter chair
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KAYAK
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KOBI STOOL
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UP IS1
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