共創から生まれる、学びの場の未来図 女子美術大学 共創デザイン学科
今回、このプロジェクトの背景や空間づくりへの想いを伺ったのは、女子美術大学副学長の松本先生です。松本先生は、かつて企業で培った経験を教育現場に活かし、学生たちが社会に出たとき、自らの力で活躍できるような学びの仕組みを模索してきました。その一環として立ち上げたのが「共創デザイン学科」です。産業界や異分野との協働を通じて実践的な課題解決力を育むこの学科の理念は、今回の1号館リニューアルにも色濃く反映されています。
教育機関としての視点と企業の専門性をかけ合わせる「共創」の姿勢。その結果として生まれたのは、単なる建物改修ではなく、未来に向けての新しい学びの舞台でした。
歴史ある校舎を未来へ
「今回のプロジェクトでは、『素材同士のぶつかり合い』をテーマに据え、教育と企業が一体となって新たな空間像を描き出しました。この「共創」の姿勢が、未来につながる学びの場の創出につながっています」
共創を育む場
新しい1号館の中でも象徴的な場所が、学生や教職員、そして企業関係者が集うカフェラウンジです。学科や学年の垣根を越えた交流だけでなく、外部の企業や団体を迎える応接機能も担っており、社会との接点を日常的に持てる空間として設計されました。
「特に共創デザイン学科では、『社会の中で自らの立ち位置を確立できる女性を育てる』という理念のもと、洗練された空間づくりを追求。天井のない開放的な設計や、客観的に見てもロジカルな印象を与えるデザインがその思想を象徴しています。ここを訪れた企業の人々が、『この学校となら新しい価値が生まれるかもしれない』と感じ、憧れを抱けるような場であることを目指しました」
松本先生はさらにこう付け加えます。
「家具選定では、空間の素材感や光の使い方と調和し、長く使い続けられる品質が求められました。洗練された造形を持つカッシーナ・イクスシーのプロダクトは、ラウンジのコンセプトと響き合い、自然にくつろぎや交流を促します。この場所は、女子美と企業、そして企業同士がつながり、新たなプロジェクトやアイデアが芽吹く「共創」の拠点として役割を果たすことを期待しています」
協働で生まれたオリジナル家具
今回のリニューアルでは、女子美、設計チーム、カッシーナ・イクスシーが三者で協力し、プロジェクト専用のオリジナル家具を制作しました。これは「共創デザイン学科」の理念を体現する試みでもあります。
多目的ホールの特注チェアについて、ベースにしたのは、イクスシーの既存モデル「MEMBRANE(メンブレン)」。その“細いフレームが生む軽やかさ”と“端正な佇まい”を生かしつつ、講義・講演の運用に必須となるタブレット(テーブル)を後付けできる仕様へと発展させました。
課題は、美観を崩さずに強度・安定性・堅牢な取付けを両立すること。使用時の荷重分布や、立ち座り・回転時にどこへ力がかかるかを検証しながら、取付位置や固定方法を何度もプロトタイピング。併せて、スタッキング時にタブレットが干渉しないためのクリアランス設計、タブレット先端の“上がり”部分の見え方(ビジュアル)の微調整など、細部の造形調整を重ねました。
結果として、必要最小限のサイズで機能を満たすタブレットを実装し、MEMBRANE本来のミニマルな印象を損なわずにノートPCや資料が置ける実用面を獲得。現場での扱いやすさも考慮した固定機構により、積み重ね・移動・保管までを含めた運用性を確保しました。デザインと運用要件の綱引きを、三者の往復で解きほぐしたこの一脚は、製品化も視野に入る完成度に到達しています。
通常のアクリル製品は均一でツルっとした表面が多いですが、本作ではゆらぎや気泡、色の変化といった偶発的な表情を“欠点”ではなく“個性”として採用。試作段階で光を当てた際に生まれる影の面白さに着目し、あえて加工途中の質感を天板に残すデザインとしました。
単なる廃材再利用を超えた「サステナブル×美意識」の取り組みは、今後さらなる応用展開や製品化の可能性を秘めています。
「産学の共同で生み出したこのサイドテーブルは、プロジェクトの象徴的な“共創”の成果といえるでしょう」
共創が形づくる未来の学びの場
「新しい1号館は、学生にとっては日常的に使う学びと交流の拠点であり、大学にとっては理念を体現する象徴的存在です。この空間が、これからも多様な人々のつながりを育み、女子美の未来を支える基盤となってほしいと願います」


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