3daysofdesign
DESIGN / DIALOGUE
日本であること、世界へ向かうこと
——IXC デザイナートーク
デンマーク・コペンハーゲンで開催されたデザインイベント「3daysofdesign」。街全体を歩きながら、デザインと人、空間との対話を楽しむこの国際的な舞台で、カッシーナ・イクスシーは日本発のオリジナルブランド「IXC」にフォーカスした展示を行いました。
会場となったのは、デザイン誌『ARK JOURNAL』がキュレーションを手がける「DESIGN / DIALOGUE」。倉俣史朗、安藤忠雄、そしてヴィコ・マジストレッティ。日本と世界のデザインをつなぐ名作たちが並ぶ中、かつてマジストレッティがIXCのために残したスケッチをもとに、新作ソファ「OZU」が初めて製品として披露されました。
本記事では、エディターの山田泰巨氏を聞き手に、IXCのアートディレクションを手がけるGamFratesiの二人が、3daysofdesignという場の魅力や今回の展示に込めた想い、そして「OZU」に宿る小津安二郎へのオマージュについて語ります。
街を歩き、対話する。
3daysofdesignという体験
近年、「3daysofdesign」は日本でも非常に注目度の高いイベントになってきています。一方で、私たち業界関係者はミラノデザインウィークにもよく足を運んでおり、ミラノをご覧になっている方は多いと思います。
お二人から見て、ミラノとコペンハーゲン、それぞれのデザインイベントにはどのような違いがあると感じていますか。
一方で、「3daysofdesign」は、コペンハーゲンの街全体を歩きながら体験していくようなイベントです。街のスケールや雰囲気も含めて、より身近で、コンテンポラリーな空気を感じられるのが特徴だと思います。
エンリコ:私たちは、「3daysofdesign」が始まった初期の頃から関わってきました。当時はまだ参加企業も10社ほどで、とても小さなイベントでしたが、その頃に私たちはロゴデザインも手がけました。
現在も使われているそのロゴを見ると、このイベントがどのように成長してきたのかを感じます。 そういう意味でも、「3daysofdesign」は私たちにとって、単なるデザインイベントではなく、最初の頃から一緒に育ってきた、とても特別な存在です。
山田:今回の展示全体のコンセプトについても教えていただけますでしょうか。
エンリコ:ここ、「DESIGN / DIALOGUE(デザイン・ダイアログ)」の会場では それぞれのブランドが自分たちのスペースを持っていますが、完全に自由に空間を作り込めるわけではありません。基本的には、会場全体のルールや構成があり、その中で家具を動かしたり、レイアウトに合わせて調整したりする形です。全体としては、とてもシンプルに保たれています。
1898年に芸術家たちによって設立された、コペンハーゲンを代表する現代美術館。2026年の3daysofdesignでは、ARK JOURNALがキュレーションする「DESIGN / DIALOGUE」の会場として使用された。
エンリコ:重要なのは、個々のブランドが単独で主張するというよりも、デザイン誌「ARK JOURNAL(アークジャーナル)」がつくる共通の世界観や編集された文脈の中で、それぞれのブランドが見せられているということだと思います。
そのような場に「IXC」が参加することは、とても良い機会だと感じています。単独で展示するだけでは届きにくい国際的なオーディエンスに対して、「ARK JOURNAL」という強い発信力を持つプラットフォームを通じて、「IXC」が今取り組んでいることを自然な形で紹介できるからです。
つまり、「IXC」にとって今回の展示は、自分たちのブランドやプロダクトを国際的なデザインシーンの中に位置づけ、より広い視点から知ってもらうための大切な機会になっていると思います。
小津への敬意から生まれた、
未完のプロダクト
山田:続いて、今回のIXCの展示についてお伺いします。3daysofdesignで初お披露目となるヴィコ・マジストレッティの「OZU(オヅ)」というソファがありますが、「OZU」と聞くと、私たちは映画監督の小津安二郎を思い浮かべます。この名前には、どのような背景があるのでしょうか。
エンリコ:名前は、マジストレッティが小津安二郎の映画を好んでいたことに由来しています。マジストレッティ亡き後、彼のお弟子さんとIXCの開発担当者が相談し、小津監督へのオマージュとして名付けられました。
このプロダクトは、もともと大きなオリジナル図面と、ひとつのプロトタイプだけが存在していたもので、正式に発表・発売されることはありませんでした。だからこそ私たちは、このプロダクトを世に出すことには大きな意味があると感じました。長い年月を経てもなお、非常に現代的で美しい。そこに、ヴィコ・マジストレッティという巨匠のすごさが表れていると思います。
スティーネ:マジストレッティは当時、日本で仕事をしており、いくつかのヴィラの設計にも携わっていました。その中で、小津安二郎の映画に流れる静けさや、空間の捉え方、日常の中にある美しさに強く惹かれていたのだと思います。そう考えると「OZU」は、単なる家具ではなく、彼が日本で見たもの、感じたもの、そして小津への敬意が結びついた、ひとつの旅のような存在だったのだと思います。
山田:今回、残された図面やプロトタイプをもとに製品化するにあたり、現代の暮らしに合わせてアップデートされた部分はありますか。
エンリコ:最も大切にしたのは、オリジナルのデザインをできる限り尊重することです。クッションまわりなど、一部には調整を加えていますが、それはデザインを変えるためではなく、現代の技術でより快適に座れるようにするためのものです。
見た目や考え方はマジストレッティのデザインに忠実でありながら、座り心地や製品としての完成度は、今の時代にふさわしいものへと高めています。
スティーネ:復刻にあたっては、マジストレッティのご家族にもお会いしました。ご家族は、このプロダクトが再び命を吹き込まれ、現代に蘇ることをとても喜んでくださいました。
単に過去のデザインを製品化するのではなく、彼の意図や精神を尊重しながら、次の時代へつないでいく。そのプロセスをご家族にも喜んでいただけたことは、とても意味のあることでした。
photo credits: Vico Magistretti by Fondazione
山田:ヴィコ・マジストレッティは、イタリアを代表するデザイナーの一人です。そのプロダクトを、今回コペンハーゲンで発表することについて、どのように感じていますか。
エンリコ:マジストレッティは、イタリアを代表する偉大な建築家であり、デザイナーです。IXCは日本のブランドですが、このプロダクトには国際的にも大きな可能性があると感じています。さまざまな空間に自然に馴染むデザイン性や美しさがあり、日本だけでなく、海外でも受け入れられる力を持っていると思います。
また、このソファは、IXCが早い段階から国際的な視点を持っていたことを示すプロダクトでもあります。日本のブランドでありながら、当時からマジストレッティのような海外のデザイナーと協働していた。その背景も含めて、3daysofdesignという国際的な舞台で紹介できたことには、大きな意味がありました。
日本に根ざし、世界へ向かうIXC
山田:今回のOZUのビジュアルは、小津安二郎の旧邸で撮影されたとうかがっています。この場所で撮影されたことについて、どのように感じていますか。
小津とマジストレッティが直接会うことはなかったかもしれません。けれども、この撮影では、二人がひとつの空間の中で出会ったように感じられました。お互いの作品や思想が、時間を超えて静かに響き合っているような、美しいストーリーだと思います。
山田:お二人は日本との長いリレーションシップをお持ちです。今回の展示における日本的な要素や、IXCとの関係性については、どのように考えていますか。
スティーネ:私たちは以前から、日本の伝統やデザイン、クラフトマンシップに強く惹かれてきました。私自身、学生時代に日本で暮らし、槇文彦さんのスタジオで働いていた経験があります。日本の建築やデザインの考え方に直接触れたことは、その後の活動にも大きな影響を与えています。
だからこそ今、IXCとこのように近い距離で仕事ができていることを、とても嬉しく感じています。IXCはクラフトマンシップを大切にしながら、数々の重要なデザイナーや巨匠たちの作品を扱ってきたブランドです。そのような日本のデザインカンパニーと協働し、過去の名作やその背景にある文化と向き合えることは、私たちにとって非常に意味のあることです。
山田:最後に、これからのIXCについて、どのように感じていらっしゃいますか。
スティーネ:IXCには、とても大きな可能性があると感じています。日本のデザインが持つ質の高さに根ざしながら、同時に国際的な視点も備えているブランドだからです。
日本国内で強い存在であり続けることはもちろん、これからは海外のマーケットでも、よりポジティブな反応を得られる可能性があると思います。今後は、過去のクラシックなデザインが再び紹介されていくでしょうし、一方で、よりコンテンポラリーな新しいデザインも生まれてくるはずです。IXCには、これから数年に向けた、とても魅力的な流れがあると感じています。
デザイナー
デンマーク人のスティーネ・ガムとイタリア人のエンリコ・フラテージによるデザインスタジオ、GamFratesi(ガムフラテージ)。 2006 年に設立し、コペンハーゲンを拠点に活動。 デンマークのクラフトマンシップとイタリアの知的アプローチを融合し、伝統を尊重しながら独自のストーリーを持つミニマルな家具を生み出している。
編集者
『商店建築』や『Pen』編集部を経て2017年よりフリーランス。建築・デザイン・アート分野の雑誌編集・執筆のほか、展覧会企画や図録制作にも携わる。














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