MASTERPIECE IN DAILY LIFE

1927年にイタリアで創業し、モダンデザインの代名詞となる家具を数多く創造してきたカッシーナ。
中でも往年の巨匠たちによる歴史的名作を集めたのが「イ・マエストリ・コレクション」です。
時代を超えて愛されるデザインは、その背景に豊かな思想や物語があります。
日常の空間にあることでいっそう輝きを増す、そんなマスターピースをご紹介します。

vol.4LEWIS COFFEE TABLESルイス コーヒー テーブル ローテーブル
BARRELバレル アームチェア
DESIGN : FRANK LLOYD WRIGHT

LEWIS COFFEE TABLES ルイス コーヒー テーブル

幾何学にそなわる有機的な深み

フランク・ロイド・ライトは20世紀を代表するアメリカ建築界の巨匠で、日本でもその存在が広く知られている。ただし活動期間が1880年代から1950年代までと長いこともあり、彼の作風には一貫したものを見つけにくい。自然と一体になった姿が美しい落水荘、細部まで装飾を凝らした旧帝国ホテル、回廊状の空間構成が大胆なニューヨークのグッゲンハイム美術館など、代表作だけでもそれぞれに個性的だ。

フランク・ロイド・ライト
LEWIS COFFEE TABLES ルイス コーヒー テーブル ローテーブル

ただしライトの造形の多くが、幾何学性と有機性の融合によって独特の魅力をそなえているのは確かだろう。彼がデザインした「ルイスコーヒーテーブル」も、幾何学のつくる形態の深みを体現したものだ。6枚の板で構成した潔いフォルムで、空間的な奥行きと豊かな表情を生み出している。1939年に原型が発想され、十数年後に完成したという事実も、このテーブルが幾何学的なルールに従っただけのものでないことを窺わせる。

BARREL バレル アームチェア

また「バレルアームチェア」は「樽」という名前の通り、真上から見ると円を基調にデザインされたのがわかる。整然としながら、つくり手のクラフツマンシップがすみずみまで発揮され、ある種の楽器のような高雅さが漂っている。ライト自邸のリビングルームにも置かれた、彼の愛用の一脚だった。

おもしろいのは、7歳の時に母親が与えた積み木が、ライトの建築に影響を与えたと言われることだ。その積み木はドイツのフリードリヒ・フレーベルが考案したもので、彼は自然の中で子どもたちを育てる幼稚園を19世紀始めに提唱した人物。数種類の四角、三角、円などの積み木は、世の中の多様なものを表現することが意図されていた。

もちろんライトのデザイン全体を積み木に還元するのは無理があるが、そこには不思議と重なるイメージがある。彼は当時から育まれた感性に基づいて、自然とそれと結びついた文化に最大限の敬意を払い、その奥深さをモダニズムの視点で読み解いていったのかもしれない。彼のつくるものには、すべてが渾然となって結晶している。

BARREL バレル アームチェア