MASTERPIECE IN DAILY LIFE

1927年にイタリアで創業し、モダンデザインの代名詞となる家具を数多く創造してきたカッシーナ。
中でも往年の巨匠たちによる歴史的名作を集めたのが「イ・マエストリ・コレクション」です。
時代を超えて愛されるデザインは、その背景に豊かな思想や物語があります。
日常の空間にあることでいっそう輝きを増す、そんなマスターピースをご紹介します。

vol.3LC1スリングチェア
DESIGN : LE CORBUSIER,PIERRE JEANNERET,CHARLOTTE PERRIAND

LC1

近代建築の巨匠の思想を伝える。

一見しただけでは、「座りにくそうな椅子」という印象を持たれがちな一脚かもしれない。スチールパイプのフレームは硬質で、座面や背もたれも薄く、精悍なプロポーションは快適さを犠牲にしているように見える。しかし実際に腰かけると、そんな印象は雲消霧散する。背もたれは左右各1点のみで固定され、姿勢に合わせて自在に角度を変化させる。座面の裏側にはスプリングがあり、十分なクッション性をそなえている。レザーのベルト状のアームレストも、素材のもつ弾力がほどよい。20世紀を代表する近代建築の巨匠、ル・コルビュジエがその事務所の所員と完成させた「LC1」には、彼の建築に通底する、人間を中心とする思想が鮮やかに発揮されている。

ル・コルビュジエは、代表作であるサヴォア邸、ユニテ・ダビタシオン、東京の国立西洋美術館など7カ国17件の建築群が2016年に世界文化遺産に登録されて、あらためて世界的に注目を集める建築家。「住宅は住むための機械である」という言葉や、建築の変化すべき姿を示した「近代建築の五原則」が広く知られている。こうした方向から語られるのは、20世紀的な合理主義者としてのル・コルビュジエだろう。だが一方で、新しいテクノロジーの活用を進めながら、大きなスケールで人々の暮らしを見据えた人間的な姿勢を、彼の作風を貫く魅力と捉えることもできる。「LC1」は、そんな2つの側面が矛盾せず、高い次元で融和しうることの証に思える。

LC1
LE CORBUSIER

さらに「LC1」の魅力を付け加えるなら、快適さというレベルを超えた、座ることでもたらされる満足感が、この椅子にはある。イタリアのカッシーナは、1928年に発表された「LC1」をはじめとするル・コルビュジエの家具を、生前の彼の了承のもとに1965年から復刻し始めた。一連の製品がオリジナルに忠実のなのはもちろん、ディテール、仕上げ、あらゆる点のクオリティが、巨匠の感性と思いの反映であることは間違いない。

「LC1」は、インドに駐留したイギリス軍の折り畳み椅子を原型に、当時のモダンデザインを象徴する素材だったスチールパイプを大胆に用いてリデザインしたものだ。同じ椅子から派生した椅子を、ル・コルビュジエの他に何人ものデザイナーが手がけた。しかし「LC1」のように、座るだけで満たされた気持ちになる椅子はおそらくない。傑作としての価値と、本物としての価値が、ここに極まっている。

LC1